イタリア事情斜め読み
ロシア制裁措置のブーメランで苦境に陥るイタリア、エネルギー高騰に対策費1.9兆円投入の詳細
| 西側諸国のロシアへの制裁措置は、ロシアを確実に追い詰めている
これまでのエネルギー禁輸制裁措置をまとめると
⭕️ロシア石炭の禁輸
4月にはすでに石炭の禁輸措置を発動している。
欧州のロシア石炭依存率は34.8%、ロシアの石炭輸入に40億ユーロ相当の禁止を課すとという欧州委員会の決定したものである。
石炭といっても、電気と熱を生成するために使用される「一般炭」と、鉄鋼の生産に使用される「冶金用石炭」を区別する必要がある。ロシアの冶金用石炭はEUの石炭輸入の20%から30%を占め、一方、一般炭の輸入に占めるロシアのシェアは70%近くであり、ドイツとポーランドが最も依存度の高い国だ。
イタリアは、ロシアの石炭を置き換える方法として、アメリカ、コロンビア、南アフリカだけでなく、オーストラリア、モザンビーク、インドネシアからの輸入に頼ることにした。
数か月以内に、ロシアからの無煙炭の輸入は他の国に完全に取って代わることが可能であるという。
⭕️ロシア石油・石油製製品の禁輸
EUの6番目の制裁パッケージが発表されたのは5月4日。
追加制裁は年内いっぱいでロシア石油を禁輸すると決定した。ロシアは毎日4億9000万ドル(1日に約630億円以上)の原油輸出で稼いでいるため、これを止めたいというのがロシアへのさらなる追加制裁措置である。
世界銀行のデータによると、ロシアはガスよりも原油の輸出で3倍の収入を得ている。
絶対数利益は年間1,789億ドルで、その内1,040億ドルはEUと英国から。
実はガスよりも原油から得られる収入源を失う方がロシアとしてはかなり痛手であるはずだ。
イタリアのロシア産石油依存度は10.1%で、570万トンを輸入している。
過去に2度このように突然、重要な石油のサプライヤーを交換しなければいけなかったという経験をイタリアはしている。2011年のリビアから20%輸入していた石油の禁輸措置、そして2013年に25%を輸入していたイランへの禁輸措置だ。
これらの経験を経て、今回のロシア石油禁輸、これを排除したとしても、簡単に他国からの輸入率を上げ、代替えの石油があるので解決できると、そこまで重大な危機には瀕することはないと踏んでいる報道の方が多い。また、今回のロシア石油削減は実際はガスよりも単純なロジスティックを備えているために交換しやすいとイタリアでは言われている。
⭕️最終手段、ロシアガスの禁輸はまもなくか?
ウクライナの天然ガスネットワーク事業者は、ソクラノフカルートを介したロシアのガスの輸送を停止したと5月11日に発表した。
ロシアのガスがイタリアに到着するフリウリへの入り口であるタルヴィージオからのガスは、1日あたり1億1,000万立方メートルのうち32.6が通過していた。それが削減されたのだ。
戦争が天然ガスの供給に影響を与えるのはイタリアでは初めてである。
イタリアとしては、ロシアへの最終制裁とも言えるガスの禁輸措置が決定される前に、既にロシア産天然ガスパイプライン閉鎖の影響の代替え案を準備している。
Ⅰ、ロシアに替わる国々からの輸入量を増やす。また、新規の国々と契約を締結する。
アルジェリア、コンゴ、カタール、リビア、アゼルバイジャン、ノルウェーで代替えをする。
これらの国々が生産する液化天然ガスに置き換えて、昨年は290億メートル立方に達したロシアのメタン輸入割当量に相当し、イタリアのニーズの38%に置き換えることができる。
その他の国からの寄与は8%から11%に増加した。
Ⅱ、タンカーで運ばれる液化天然ガス(LNG)これを米国、ナイジェリア、アルジェリアから入れる。
米国から到着するLNGの割合は28%から49%に増加し、ロシアの割合は17%から13%に低下した。
カタールの割合は20〜10%に低下、ナイジェリアからの液化天然ガスは12%から9%に、アルジェリアからは14%から7%に減少した。
*ヨーロッパの液化天然ガス輸入は、2021年と比較して1月から4月の期間に28%増加した。
4月に液化天然ガスの3つの主要輸入国であるフランス、スペイン、英国が680万トン。
Ⅲ、イタリア国内に既にあるLNGタンカー船を受け入れる3つのプラント、カバルゼレ、パニガリア、リボルノをフル稼働させることである。実際には、ロシア産ガスの依存度は現在は43%から38%へと削減したが、まだロシアにガスは頼っている。
| ロシアへの制裁は明らかに矛盾している
欧州連合全体では、ガスと石油の輸入だけで、ロシアへ1日に約10億ユーロ(約1326億円)を"今でも支払っている"。
ロシアへの経済制裁に関する明らかな矛盾であるし、クライナでの戦争に関するヨーロッパの立場は、避けられない矛盾にぶつかったように思える。
EU連合は、一方ではウクライナを支援するために武器を送っているが、他方面では、ロシアから高騰した価格で石油とガスを購入し続けている。
つまり、ヨーロッパは、ウクライナ側とロシア側の両方から紛争に資金を提供しているのではないかと、単純に疑問が湧いてくる。
しかし、実際にはそうではないという。
ロシアからエネルギー原料を購入するために支払われたドルとユーロは、ロシア当局や個人が簡単に再利用できないためであるという。それらは、戦争が続く間は触れられないものである。少なくともロシアへの制裁措置が実施されている限り、ロシアの石油とガスの輸出の収益は事実上の凍結をもたらしているので、ガスや石油の販売で得た莫大な財源はロシア経済の深刻な悪化とは対照的にどんどん蓄積されている。
制裁が解除された場合にのみ貯蓄された資金が利用可能になるという。
ガスプロムバンクが集めたドルとユーロで何ができるかというと、実際には何も出来ない。
もちろん、武器の購入や輸入する費用には流用できないのである。
現在もロシアからガスや石油を購入するためには、ドルまたはユーロで支払いが行われている。
ドルの場合は米国連邦準備制度によって最終的に決済される通貨を発行する中央銀行、ユーロの場合は欧州中央銀行である。
なので、制裁対象の事業体は、関連する中央銀行またはその対応者に通知がない限り、ドルまたはユーロで支払いを受け取ったり発行したりすることはできない。
この規則に従わなかった銀行は、米国法に基づいて米国司法省によって直ちに起訴され、即時ブロックされる。米国法は、取引でドルが使用される場合は常に米国外でも適用される。
例えば、過去数年間を見てみると、キューバやイランなど外国の銀行は、米国の禁輸法に違反したために、しばしば非自発的にドルの支払いを通じて、米国財務省に多額の罰金(約50億ドル)を支払わなければならなかった。
この西側諸国によって導入された制裁システムは、ロシアの生産システム、特に軍事システムを弱体化させるには効果的であり、そして、1日でも早い平和的紛争解決を達成させるための強力なインセンティブを生み出しているに違いない。
| ロシア経済制裁の結局、こっちが苦境に陥っている
ウクライナ経済は確かに苦しんでおり、国際通貨基金による予備報告によると、ロシアによる侵略が続くと、2022年には35%縮小するリスクがあると説明されている。
ウクライナの国としてのGDPは10%低下するだろうと言われており、公的債務は2021年の50%から国内総生産の60%に増加すると予想されている。
米国とカナダ、オーストラリアと欧州連合、北欧諸国。世界の豊かな地域と非常に豊かな地域とでは、経済危機の感じ方はそれぞれ異なる。
国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は、退職者、不安定な労働者、若者など、弱い立場の階級を確保するよう求めている。
次に、国連事務総長のグテーレス氏は、ひまわり油(半分はロシアとウクライナで生産されている)や、ウクライナ産とロシア産の小麦30%消費している貧しい国々について、懸念を抱いている。現在の状況では、サプライチェーンをアクティブに保つことが困難なため、食料価格も指数関数的に上昇していく。それによって、飢饉、不安、政情不安を起こすリスクがあるという。
ロシア侵攻戦争前、今年はヨーロッパレベルで4%の成長を予測していたが、もはやそれは現実的ではない。
経済担当委員パオロ・ジェンティローニ氏は、ロシアとウクライナの間の戦争の経済的影響を「取るに足らないもの、それ以外のもの」と定義した。
エネルギー価格の高騰、原材料の問題、インフレにより、さまざまな加盟国の予算に追加のコストが発生している。
結局のところ、EUは自分の行いで自ら苦境に陥っているブーメラン状態なのだろうか。
| イタリアはエネルギー高騰対策などに1.9兆円投入、その詳細
禁輸に備え、イタリア政府は、企業や家庭向けのエネルギー価格高騰対策に140億ユーロ(約1兆9000億円)を投じると発表。
3月18日、イタリア下院議会は、全会一致で議会を通過し、エネルギー値下げ案が可決した。
3月18日の夜に開催された値下げ措置について、ドラギ首相は記者会見で、「原材料費の高騰のおかげで生産者が生み出している特別利益の一部に課税し、このお金を非常に困難な企業や家族に分配する。」と説明した。
2022年3月21日の法令第21号に新機能が導入され、3月22日から公式官報に掲載され承認された。
燃料費の削減など、そこに含まれる支援が発効されたのである。この規定には、ウクライナ危機の経済的および人道的影響に対抗するための一連の措置、とりわけ高価なガソリン価格の値引きが含まれていた。
5月12日の午後、上院でも賛成178票、反対31票、棄権1票で可決した。その後、商工会議所に渡り、2022年5月20日までに法案を承認する必要があり、プロセスは着々と進行中である。
法令の措置をまとめると、以下の基礎に焦点を当てている。
・エネルギーと燃料価格の上昇の封じ込め
・エネルギー価格の対策
・ビジネスのサポート
・イタリア国営企業の保護のための保障措置
・人道的受容
燃料価格の引き下げと援助に関して、この措置に何が含まれているのか、詳細を見てみよう。
【ガソリンとディーゼルのコスト削減】
モーター燃料として使用されるガソリンとディーゼルの物品税の削減は、2022年7月8日まで延長される事になった。実際、その拡張を確立し、それをメタンに拡張した新しい法令も、この転換法に収斂している。その結果、ガソリンとディーゼルの場合は 1リットルあたり 30.5セントユーロ(約4,100円)の割引になり、液化石油ガス(LPG)の場合は、省令で想定されているように物品税が8.5セントユーロ(約1,143円)減少。
税込価格になると 10.37セントユーロ(約1,395円)の割引が受けられる事になる。
メタンに関しては、物品税はゼロになる。
しかし、官報に掲載された法令には、エネルギー製品の価格の例外的な上昇に起因する経済的影響を考慮して、燃料として使用されるガソリンとディーゼルの物品税率は、第2項で言及されている期間に関連して、以下の措置で言い換えられる。
ガソリンにかかる物品税:1000ℓあたり478.40ユーロ。(約64,300円)
石油(燃料として使用されるガスまたはディーゼル):1000ℓあたり367.40ユーロ。(約49,300円)
燃料として使用される液化石油ガス(LPG):1,000kgあたり182.61ユーロ。(約24,500円)
輸送に使用される天然ガス:1立方メートルあたり0ユーロ。
また、付加価値税は5%に引き下げられた。
これらのガソリンとディーゼルの割引は7月8日まで延長される。
【燃料ボーナス】
2022年を通じて、民間の雇用主から従業員に無料で販売されたガソリンバウチャーの価値は、労働者1人あたり最大200ユーロ(約26,000円)であり、収入の創出には寄与しない。
【企業の税額控除】
この規定は、エネルギー集約型企業に有利なクレジット(20%から25%)や天然ガスの消費量が多い企業(15%から20%)など、企業に有利なクレジットで、企業の利益のためにさまざまな税額控除を導入した。
【電気・ガス代ボーナス】
2022年4月1日から12月31日までの期間、電気とガスの社会的ボーナスへのアクセスのISEE値は12,000ユーロに拡大した。実際には、520万世帯に拡大され、昨年の夏の時点と同等のレベルに戻り、電気とガスの料金で支払える。
【バーやレストラン】
9月30日まで、バーやレストランは公有地の占有料を支払うことで屋外エリアやテーブルを維持することができる。
【光熱費24回の分割払いOK】
電気と天然ガスの最終顧客であるイタリアに拠点を置く企業は、2022年5月と2022年6月のエネルギー消費額を分割払いで支払うようサプライヤーに要求できるようになった。
毎月の分割払いは最大24回、それを超えることはできない。
【賃金補足】
通常の賃金補足処理に頼ることができなくなった雇用主は、2022年の1億5000万ユーロの支出制限内で、2022年12月31日まで使用可能な数週間の通常の賃金補足処理が付与される。特に観光セクターのビジネス。
【MU観光税額控除】
2022年には、アグリツーリズム活動を行う企業を含む観光宿泊企業、屋外宿泊施設を管理する企業、展示会および会議部門の企業、スパ複合施設およびテーマパークに税額控除が付与される。
水族館や野生生物の保護公園も含み、支払われた金額の50%に相当する。
地籍カテゴリーD/2に該当する不動産に対する市税(IMU)の2021年の2回目の分割払いとして、所有者がそこで行われる活動の管理者でもあり、売上高または手数料の減少に苦しんでいることを証明することを条件とする。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie