オーストラリアの診察室から
オーストラリアとイギリス女王の国葬
イギリスのエリザベス女王の国葬は世界的に大きな話題になり、葬儀の模様は多くの国で放送されました。日本でも放送されたようですが、オーストラリアではほぼ全てのチャンネルで生中継されていました。
9月8日にエリザベス女王が亡くなったあと、オーストラリア政府は9月22日を女王哀悼の日としました。これはかなり急な決定でありいろいろな意見がでました。葬儀の直前直後ではないので、なぜ9月22日なのか疑問視する声もありました。一方で新たな休みを歓迎する人も多くいました。ビクトリア州では既に9月23日が祝日だったため4連休となり、新しく発生した祝日を満した人達も沢山いました。
画像:Kim Jackson-iStock
この祝日は従業員には喜ばしいことでしたが、会社や雇用主にとっては急に発表されたこともあり悩ましい問題となりました。多くの国民が10日前にこの発表を知りましたが、雇用主にとってあまりいいオプションはありませんでした。9月22日に通常のように従業員に働いてもらう場合、祝日の上乗せ給与を支払わければなりません。これは通常の賃金の2倍かそれ以上です。かといって、その日を休業とすると収入は入りませんし、その場合でも通常の給料は支払わくてはなりません。開業して追加賃金を払うか、休業して通常の収入を失うか、どちらにしても雇用主としては予定外の損失となります。
お金の問題以外に、急な祝日で多くの医療機関ではより深刻な問題が生じました。オーストラリアでは祝日の場合、病院などは最低限のスタッフで緊急にのみ対応することがほとんどです。クリスマス中などは緊急の手術しか行われませんし、外来も閉まります。クリスマスなどの祝日はカレンダー上で事前にわかっていることなので、手術等の予定が入ることはありません。この9月22日は突然の祝日となる前は通常の平日だったためすでに手術や外来の予約で埋まっていました。コロナの影響で手術や専門の外来受診を待っている患者は通常よりも多くいました。新しい日に手術や外来を変えようにもすでに埋まっているので、更に数か月先まで延期になってしまうケースも出てきます。医療施設によってすべてキャンセルして延期したところもあれば、緊急なもののみに対応したところもありました。
今回のこの祝日は一回限りの祝日です。今のところクイーンズランド州では女王の誕生日の祝日が10月3日に設定されています。来年からはチャールズ国王の誕生日が祝日になるかもしれません。
参考
https://www.abc.net.au/news/2022-09-12/queen-memorial-public-holiday-tricky-timing-for-businesses/101428028
著者プロフィール
- 高尾康端
日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。
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