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オーストラリアの診察室から

高尾康端|オーストラリア

オーストラリアの専門医資格制度の問題点

画像:pixabay_geralt1

以前のブログでお話ししたように、オーストラリアでは専門資格の有無が医師としての収入や就職先に大きな影響を与えます。そのため、資格取得トレーニングプログラムへの参加や専門医試験に対するストレスは非常に大きなものとなります。

例えば、眼科などでは州ごとに年に数人しかトレーニングプログラムに入れないこともあります。そのため、他の人と差をつけるために、学生時代から研究を行い、論文を発表したり、博士号を取得したりする人もいます。

トレーニングプログラムによっては、プログラム終了後に専門医資格を取得するための試験があり、多くはこの試験の受験回数が限られています。また、トレーニングプログラムによっては、そのプログラムに入るための試験が行われる場合もあります。例えば、内科系のトレーニングプログラムでは、最初に一般内科医のベーシックトレーニングというプログラムに入ります。その間に筆記試験と口頭試験に合格すれば、循環器などの内科系のアドバンストトレーニングプログラムに進むことができます。筆記試験と口頭試験があり、どちらも受験できるのは3回までです。そのため、ベーシックトレーニング期間をわざと延長し、試験を受けるタイミングを遅らせる人もいます。アドバンストトレーニングに入れば、プログラムを終了するための試験はありません。トレーニングプログラムの内容や構成は診療科によって異なりますが、どの科にも様々な難関があります。

正規のトレーニングプログラムに入れない場合、未認定の仕事をすることになります。この未認定の仕事の内容は科によって様々ですが、例えば外科系では正規のプログラムと似たような内容です。その間に上司の推薦状をもらったり、追加の資格を取得したりして、再度正規のプログラムに応募します

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画像: pixabay_silviarita

トレーニング中は、正規プログラムか未認定かを問わず1年の短期契約の場合が多いです。未認定の仕事をしている場合、次の年に仕事が見つかるかどうかは不透明で、多くの場合、毎年異なる病院で研修を行う必要があります。場合によっては、異なる州に移動したり、地方の施設に行ったりする必要もあります。先が見えない未認定の研修、試験の回数制限、頻繁な転勤は研修医にとって大きなストレスとなります。仕事をしながらの試験勉強や頻繁な移動は、家族にも大きな負担をかけます。これらのストレスにより、燃え尽き症候群や精神疾患に陥る研修医もいます。高校や大学で常にトップだったため、試験に落ちたことがないという優秀な研修医であってもそのようなストレスに遭う可能性があります。

医師の一定レベルの知識や技術を担保するためのトレーニングプログラムと専門医資格制度ですが、多くの研修医のメンタルヘルスに問題を引き起こしています。また、試験の結果と医師としての良否は必ずしも一致しないという意見もあります。他の多くの試験と同様、緊張などで実力を発揮できない人もいます。しかし、専門医として一定のレベルを確保するため、このような制度が必要だとする意見もあり、非常に難しい問題です。

 

Profile

著者プロフィール
高尾康端

日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。

Twitter:@dryasutakao
Facebook:Dr Yasu Takao
ブログ:https://www.dryasutakao.com.au/blog

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