オーストラリアの診察室から
オーストラリアの僻地医療問題
最近のニュースでオーストラリアのクイーンズランド州では医師不足で医師に一日に$2700以上を払う病院などがあると報道されました。結構話題になったニュースで医療関係者以外の人からはこんなに払うなんて信じられないというコメントやそれだけ田舎や僻地は大変だというコメントがSNSなどに掲載されていました。
確かに$2700は大きな額ですが、ミスリードなところがあります。これは小さな病院もしくはクリニックを一人で24時間カバーした場合の金額であって、一日8時間勤務での金額ということではありません。そしてほとんどの場合、常勤の医師を確保できないため、短期で来てもらうバイトの医師への金額です。24時間カバーの場合、夜も緊急などで呼ばれる可能性も高いです。実際に働いた時間で時給に換算した場合、$100は超えるほどでしょう。オーストラリアでは8時間以上労働や夜勤だと追加報酬がでることが多いので、一日$2700はそこまで破格の額ではありません。
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オーストラリアの僻地医療はかなり以前から続く問題で、オーストラリアの医師会や政府もいろいろな政策をためしてきました。地方や僻地出身の医学生を増やす政策も行いましたがそれほどの効果は発揮していないようです。他にも医学部入学の条件として、何年かの僻地診療を義務付ける制度や、学費を免除する代わりに僻地診療を義務付ける制度などもあります。しかし学費免除は免除された学費をあとで払って僻地に行かないケースもあります。又、僻地に行かなければいけないとすること自体が法律違反だとして訴訟を起こしている人もいます。
オーストラリアは海外出身の医師を勧誘し僻地で働いてもらうと政策も行っています。一定期間働けば、他の地域に移れる場合もあります。しかしあまりの環境の違いに数日で帰国してしまったという医師もいるそうです。他にもどれぐらい僻地かによってランク付けし、僻地の程度に応じて追加診療ボーナスを支給する、また僻地勤務期間が短縮される制度などもあります。
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僻地での医師不足は多くの国で見られる問題です。医師が僻地にとどまらない理由は様々です。よく耳にする理由はパートナーの仕事がないことです。オーストラリアでもカップルで共働きが一般的ですが、僻地ではパートナーが仕事を見つけるのが困難です。同じ医師同士のカップルでも、専門によっては僻地では行えないトレーニングプログラムもあります。子供が大きくなってくると学校の問題も出てきます。有名な学校は都心部に集中しているので、子供の教育のために都心部に戻る人たちも多くいます。他にも、特に若い人たちにとっては田舎だと新しい友達を見つけるのが難しい、遊ぶ場所がないなどの問題もあります。
新しい政権になり、長年続いている僻地医療問題が改善されるか注目されています。
参考
https://medicalrepublic.com.au/bonded-rural-program-fails-students-too/66998
著者プロフィール
- 高尾康端
日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。
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