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オーストラリアの診察室から

高尾康端|オーストラリア

大雨と健康問題

画像: kemalbas_iStock

ブリスベンを含むクイーンズランド州は2月末に非常に激しい豪雨に見舞われました。10年に一度の規模といわれています。 何日も続いた大雨は多くの場所で洪水をおこし、完全に孤立した町もありました。

私の住むブリスベンでは危険なので不要不急以外の外出を避けるようにと政府から通達がありました。学校は休校になり、洪水により道路は分断され、多くのエリアでバスや電車のサービスが一週間ほど停止しました。ブリスベンの主要交通機関の一つであるフェリーサービスに至っては桟橋が流されるなど、被害は甚大で再開まで3か月近くかかるといわれています。ブリスベンでは自転車専用の道の整備も拡大していましたが、この大部分も損害を受けたようです。 多くのエリアで家屋や施設が浸水し、停電の復旧には1週間以上かかるエリアもありました。そしてクイーンズランドでは13人もの大切な命が失われました。

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画像:EyeOfPaul_iStock

洪水が治まっても、様々な健康被害が心配されています。大雨と洪水によって水たまりがたくさんでき、これにより蚊による病気が流行する恐れがでています。今のところ大雨との直接の関係は証明されていませんが、クイーンズランド州、ビクトリア州、ニューサウスウェールズ州、南オーストラリア州で19件の日本脳炎のケースがありました。日本脳炎のケースはオーストラリアの北最先端のエリアでは以前からありましたが、それ以外のオーストラリアの地域で見つかることはありませんでした。日本脳炎は蚊から人に感染する病気です。日本脳炎という名前ですが、近年では日本でのケースはほとんどなく主に東南アジアで感染が確認されています。名前のように脳の炎症を起こし、場合によっては死に至る場合もあります。発症した場合、専用の治療薬はありませんが、予防できるワクチンはあります。最近まではオーストラリアでは日本脳炎について知る人はあまりいませんでした。日本脳炎のワクチンを接種する人も東南アジアに旅行に行く人のみでした。オーストラリア政府は現在、日本脳炎のワクチン確保に力をいれています。

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画像: iievgeniy_istocks

日本脳炎以外にもロスリバーウイルス感染症、デング熱などの蚊を媒体にして感染する病気の広がりが心配されています。ロスリバーウイルス感染症はオーストラリアを中心としたオセアニアでみられる病気で主に関節炎、筋肉痛や倦怠感などを引き起こします。クイーンズランド州政府などは以前よりも虫よけスプレーなどの虫よけ対策を促しています。

オーストラリアはこれから冬に向かっていくので蚊の発生は減少していくことが期待されますが、今後日本脳炎がオーストラリアで定期的に発生するかは不透明です。洪水のひどかった場所では復興作業がまだ続いています。そして更なる大雨により再び洪水になっているエリアもあります。コロナ禍による経済のダメージから立ち直ろうとする中で、大規模洪水の被害は追い打ちをかけるかのようにあらゆるところに被害をもたらし、人々から多くの大切なものを奪いました。



参考
https://www.abc.net.au/news/2022-03-04/nsw-and-qld-floods-caused-by-consecutive-la-ninas-experts-say/100875572
https://www.abc.net.au/news/2022-03-17/qld-flood-clean-up-could-cause-asbestos-disease-spike/100913612
https://abcnews.go.com/International/wireStory/thousands-evacuate-worst-australian-floods-decades-83169516
https://www.livescience.com/australia-encephalitis-outbreak-climate-change
https://www.sbs.com.au/news/article/high-risk-australian-communities-prioritised-in-japanese-encephalitis-virus-vaccine-rollout/b5bt8z8uz

 

Profile

著者プロフィール
高尾康端

日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。

Twitter:@dryasutakao
Facebook:Dr Yasu Takao
ブログ:https://www.dryasutakao.com.au/blog

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