オーストラリアの診察室から
コロナワクチンと繰り返すロックダウン 〜オーストラリア〜
オーストラリアの新型コロナウイルスワクチン接種は進んではいますが、とてもスローペースです。5月29日までの時点で、日本では約1100万本のワクチン接種がおこなわれ、人口の2.4%が2回目の接種を終えています。 一方オーストラリアでは約400万本のワクチン接種が行われ、2回目のワクチン接種を終えたのは人口の2パーセント以下です。
現在私が所属しているクリニックでも、政府から分配されるワクチンの数は徐々に増やされています。最初は1週間に50回分だけでしたが、現在は1週間に150回分に増やされました。
オーストラリア政府の現在の方針は、50歳以下にはファイザー社製ワクチン、50歳以上にはアストラゼネカ社製ワクチンを接種する計画です。しかし数週間前にオーストラリアの大手新聞シドニー・モーニング・ヘラルドがおこなった調査では調査対象の約29%の人がワクチンを打つ予定はないと回答しました。新型コロナウイルスは高年齢であるほど死亡率が上がり、症状が悪化する可能性が高いとされていますが、55歳以上のグループでも約47%の人が接種をうけないと答えました。オーストラリアの人がワクチン接種を受けない理由はワクチンの副作用に対する心配が主な原因です。また市中感染が非常に少なく、正式に国境が開くのはしばらく先になるから急いで打つ必要がないと考えている人も多いようです。
画像:Leylaynr-ISTOCKS
オーストラリア政府は、今年10月頃には追加のファイザー社製やモデルナ社製のワクチンを入荷する予定だと発表しています。接種が10月以降になってもアストラゼネカ社製以外のワクチンを接種したいと考えている人もいるようです。オーストラリア政府はたとえ追加のファイザー社製やモデルナ社製のワクチンを入荷しても、50歳以上の人がそれらを接種できるのか今のところ発表していません。
画像:Vasil Dimitrov-ISTOCKS
そんな中、市中感染の増加を受け、5月27日の深夜からメルボルンは4度目の7日間のロックダウンに入りました。市中感染の原因はまだ調査中のようですが、ホテル隔離からの感染が疑われています。市中感染が再び広がる中、未だにコロナワクチン未接種の老人ホームがいくつかあることがわかり、問題になっています。政府は老人ホーム入居者を最前線で働く医療関係らと同じく、ワクチン接種が最も最優先とされる1aのグループとして位置づけしてきました。すでに50歳以上の人を対象にした2aのグループの接種も始まっている中で1aに含まれる人たちの接種が終了していないことが疑問視されています。また、昨年メルボルンで新型コロナウイルスにより多くの死者がでたとき、そのほとんどが老人ホームの高齢者たちでした。
市中感染を抑えることに成功し、日常生活を取り戻しつつあるオーストラリアですが、ワクチン接種が進まなければ、今回の様にひとたび市中感染が起これば、再びロックダウンしなければならず、繰り返しです。今後、ホテル隔離や予防接種プログラムにおいてどのような改善があるか注目です。
参考
https://ourworldindata.org/covid-vaccinations?country=JPN~AUS
https://www.smh.com.au/politics/federal/older-australians-especially-older-women-most-concerned-about-covid-vaccines-20210519-p57tc4.html
https://www.bbc.com/news/world-australia-57181038
https://www.abc.net.au/news/2021-05-28/victorian-covid-lockdown-could-it-last-longer-than-seven-days/100171626
著者プロフィール
- 高尾康端
日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。
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