オーストラリアの診察室から
オーストラリアの国境
昨年、オーストラリアは新型コロナウイルスの感染が広がり始めた当初から厳しい隔離システムを行ってきました。厳格な隔離システムはオーストラリアの新型コロナウイルス感染者の数を低く抑えている理由の一つです
インドで新型コロナウイルスの変異株の感染が広がっている状況を踏まえ、オーストラリア政府は5月のはじめに、インドからのすべての入国を5月15日までの間、一時的に停止しました。この期間中にオーストラリアに帰国しようとした場合は、6万6千ドルの罰金と禁固刑があると発表されました。インドでは約9千人のオーストラリア人が帰国を待っています。
そして予定どおり5月15日にインドからの帰国便が再開されました。ところが、この飛行機に搭乗できたのはわずか80人ほどでした。約70人が事前の新型コロナ検査で陽性、または濃厚接触者とされ、搭乗できなかったのです。しかしその後、搭乗できなかった人のうち、少なくとも3人が検査で陰性となり、検査の正確性が疑問視されています。
画像: bennymarty-ISTOCKS
その後、インドからの2回目の帰国便が5月23日にオーストラリアのダーウィンに到着しました。この便では165人が帰国しました。オーストラリア政府はこれからもインドからの帰国便を増やしていくと発表しています。
現在オーストラリアは観光客、ビジネスでの来豪をほとんど認めていません。オーストラリア国籍や永住権を保持する人はオーストラリアを離れることはできますが、帰国するのは簡単ではありません。家族の死、病気、勉強や仕事、そしてもとから海外に住んでいる場合はオーストラリアからの渡航の許可が得られる可能性があります。渡航する人はオーストラリア政府に渡航理由の証拠を提出する必要があります。オーストラリア政府によると、2020年の3月から2021年4月末までの間に144,628人のオーストラリア人と永住権保持者にオーストラリアから出国する許可が与えられ、それと同時に74,163人の出国許可が却下されました。そしてオーストラリア政府は現在インドとパパニューギニアへのオーストラリアから渡航を完全に停止しています。
当分オーストラリアに戻れないことを覚悟で家族に会うためにインドに行きたいオーストラリア人は多くいるようですが、オーストラリア政府は出国の許可をだす予定は今のところないようです。オーストラリア国内の新型コロナウイルスの感染を防ぐという点では仕方がないという意見がある一方、家族の死などに立ち会えるように、より柔軟なシステムが必要だという声も上がっています。
参考
https://www.bbc.com/news/world-australia-56967520
https://www.9news.com.au/national/coronavirus-border--australians-trying-to-fly-from-india-face-jail-and-fines/c5de0738-8a1f-4374-b6ba-75706fabfc00
https://www.9news.com.au/world/india-repatriation-flight-darwin-departs-new-delhi-on-schedule/7e4a7597-3e74-43f7-b124-a0dfaaa29597
https://www.sbs.com.au/news/traveller-on-first-repatriation-flight-from-india-flight-tests-positive-to-coronavirus
https://www.abc.net.au/news/2021-05-23/india-covid-repatriation-flight-lands-in-darwin-after-travel-ban/100158712
https://www.smh.com.au/politics/federal/no-passengers-turned-away-on-second-india-covid-flight-to-australia-20210522-p57u8l.html
https://www.abc.net.au/news/2021-05-14/australians-desperate-to-get-to-india-blocked-by-travel-ban/100138392
https://www.voanews.com/covid-19-pandemic/australia-urged-ease-covid-19-border-controls
https://www.abc.net.au/news/2021-05-21/coronavirus-australia-border-closed-india-compassion/100154642
著者プロフィール
- 高尾康端
日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。
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