オーストラリアの診察室から
新型コロナワクチンパスポートについて
オーストラリアでも2月から新型コロナウイルスワクチンの予防接種が始まりました。オーストラリアの新型コロナウイルスワクチンの予防接種が始まる前の週末、いくつかの都市で新型コロナウイルスワクチン接種の強制に対して反対デモがありました。これらのデモの詳しい経緯は不明ですが、オーストラリア政府は今のところ新型コロナウイルスワクチンの接種は任意と発表しています。
現在のところ、国家レベルでは新型コロウイルスワクチンの非接種者に対してペナルティなどはありません。オーストラリア政府も接種を強制すれば、さらなる反発があると予想し、その代わりにSNSやテレビで新型コロナウイルスワクチン効果や安全性について説明しています。
オーストラリアでは、子供に指定されたワクチン(例: 麻疹・風疹など)を接種させない場合、保育費用支援金対象外になります。もしアレルギーや医療上の理由で国が定めている子供用のワクチンが受けられないが、保育費用支援金が必要な場合には医師から接種できない理由についての書類の提出が必要になります。今回の新型コロナワクチンではそのような制限を政府は発表していません。
しかし、オーストラリア政府が新型コロナウイルスワクチンの予防接種を任意としていても、職種によっては接種していないと仕事に就けないという可能性もあります。現在のところ、医療関係者に関しては勤務先の方針によって決まります。多くの医療機関では就職の際に、過去のワクチン接種歴と抗体検査の結果が義務づけられているので、新型コロナウイルスワクチンの接種歴もその一部になる可能性もあります。
以前はインフルエンザワクチンの予防接種は任意でしたが、昨年はいくつかの老人ホームや保育園が、スタッフにインフルエンザワクチンの予防接種を労働の必要条件としました。これに関連して、経営者と労働者の間で裁判も起こっています。現在のところオーストラリア政府は老人ホームなどで働くスタッフの新型コロナウイルスワクチンの接種は任意としています。しかしSafe Work Australiaや法律の専門家によると、新型コロナウイルスワクチンの非接種により、周囲の人への影響が大きい職種の場合、雇い主が接種を労働条件の一部として求めることが法律的に可能であるかもしれないそうです。今のところ雇い主が新型コロナウイルスワクチンの予防接種を労働者に対して雇用の必要条件とできるかはケースバイケースのようです。一方的に雇う側が接種を求めるのは労働者差別とみなされる可能性があり、法に触れる可能性もあるので、さらなる法改正または政府による詳しい法律の説明が必要とされています。
(画像:ourtneyk-ISTOCKS)
新型コロナウイルスワクチンの接種を任意にするかは国際的にも複雑です。様々な国で新型コロナワクチンパスポート案が上がっています。これは新型コロナウイルスワクチンを接種した証明書のようなもので、この証明書を所持していれば、海外、国内での隔離を免除したり、短縮できる可能性があります。IATA (国際航空運送協会)も類似案をだしています。まだ将来どうなるかは不明ですが、たとえオーストラリアの法律で新型コロナウイルスワクチンの接種は必要でなくても、他の国では必要という可能性もあります。現在、オーストラリアやニュージーランドは新型コロナウイルスワクチンパスポートの導入を検討しています。実際に黄熱病の予防接種は国によっては正式な証明書が必要で、この証明書がない場合入国できない国などもあります。そのため、新型コロナウイルスワクチンでも似たようなことがおこってもあまり不思議ではありません。しかし、このコロナウイルスワクチンパスポート制度は新型コロナウイルスワクチン接種が難しい難民などの移動をより難しくしたり、新たな差別を生む可能性も危惧されます。
(画像:anilyanik-IStOCKS)
世界中で予防接種が広がるとともに、コロナワクチンパスポートや労働条件が今後どうなるのか注目です。
参考
https://www.ccercatholic.org.au/mandatory-covid-19-vaccinations-in-the-workplace/
https://theconversation.com/a-covid-vaccine-passport-may-further-disadvantage-refugees-and-asylum-seekers-155287
https://www.abc.net.au/news/2021-02-22/air-nz-to-trial-vaccination-passports-for-flights-to-australia/13180860
https://theconversation.com/can-my-boss-make-me-get-a-covid-vaccination-yes-but-it-depends-on-the-job-154054
https://www.safeworkaustralia.gov.au/covid-19-information-workplaces/industry-information/general-industry-information/vaccination
https://www.health.qld.gov.au/clinical-practice/guidelines-procedures/novel-coronavirus-qld-clinicians/covid-19-vaccination-information-for-healthcare-workers
https://www.abc.net.au/news/2021-01-22/covid-19-vaccines-not-mandatory-for-aged-care-workers,-pm-says/13082760
https://www.abc.net.au/news/2021-01-21/some-industries-may-impose-their-own-mandatory-vaccine-
著者プロフィール
- 高尾康端
日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。
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ブログ:https://www.dryasutakao.com.au/blog