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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

オリンピックと共に考える、「ファンキ・カリオカはブラジルを代表する文化」と言えるのか

2021年東京オリンピックにて跳馬金メダル、個人総合銀メダルに輝いたヘベッカ・アンドラーデ(本文内掲載のYouTubeよりキャプチャ)

「オリンピック観た?」
久しぶりに連絡をくれた音楽院時代の友人から、そう質問をされた。
私は普段からテレビを観ないため、ネットでハイライト放送を観た程度で終わってしまったのだが、ニュースやTwitterでブラジル勢の活躍と共に面白い話題が流れてきたことを思い出した。

ヘベッカ・アンドラーデ、東京で"バイリ・デ・ファベーラ"

このニュースの見出しは、おそらくブラジル人かブラジル音楽好きにしかわからない内容だと思うが、ヘベッカがメダル獲得した朗報はもちろん、床の演目で使用した"バイリ・デ・ファベーラ"の選曲はブラジル人にも意外だったようで話題となった。
曲の前に、少しヘベッカについてお話ししたい。

|女性体操でオリンピックメダリストになった初のアフリカ系ブラジル人

ヘベッカ・アンドラーデ(日本のニュースではレベッカと表記されているが、現地でReは"へ"の発音となるため、ここではヘベッカと表記する)は、1999年5月8日、サンパウロ市郊外のグァルーリョスで生まれた。
バスもしくは電車だと1時間程度のサンパウロ中心部に面した街で、国際空港があることでしられている。
ヘベッカはシングルマザーであるホーザと8人兄弟の家庭で育った。
ホーザは子供たちを養うためにレストランなどで必死に働いたが、不安定な収入から家族は何度も引っ越しせざるを得なかったそうだ。

ヘベッカは幼い頃から活発で、ホーザの姉妹が子供たちを体操教室のテストに連れって行った際、その才能を見せつける。
ヘベッカの動きをみて、先生たちはダイアニーニャと名付けた。これは同じくアフリカ系ブラジル人の体操選手で、数多くのタイトルを獲得したダイアナ・ドス・サントスから取った"小さなダイアナちゃん"を意味している(ダイアナは現役時代惜しくもオリンピックではメダルを逃しており、ヘベッカの朗報に「アフリカ系ブラジル人として嬉しい」とスポーツ番組で涙ながらに称した)。

娘の才能を信じ、ホーザはヘベッカを体操教室に通わせることにし、就業先からもらう交通費手当を教室へ通うバス代に充てた。
しかし、手当を生活費に回さなければならなくなり、当時13歳だった長男のエメルソンは4歳のヘベッカの手を引いて片道1時間半かかる道のりを歩くことになる。
エメルソンは妹の稽古が終わったら、彼女を学校に送り届け、自分の授業に向かった。食事はその合間に素早く済ませた。

ある日、エメルソンは鉄回収場にて壊れた自転車をみつける。
早速回収場の主人に相談してみると、集めた空き缶と交換してもらうことができた。それからは空き缶を集め続けて自転車の部品と交換し、見事に自転車を組み立てヘベッカの送迎に使った。

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母ホーザ(手前)、エメルソン(左から2番目)、兄弟とその配偶者、甥っこたち(Photo by Adriano Vizoni/Folhapress)

|生きる上で大切なことは家庭で覚えた

大会には寄付を募りながら参加し、家族の支えと本人の強い意志と努力が結果に現れ始める。
今では父親的存在とも言われるコーチのフランシスコ・ポラーチに招かれ、サンパウロから遠く離れたクリチバで体操に専念することになった。
当時9歳だった娘に母は、「いってらっしゃい。次に戻ってくるときは金メダルを持って帰ってきてね」と冗談を言いながらも、娘の決意を主張し、羽ばたくのを見守った。


のちにBANDニュースにて「母の愛は時々利己的になってしまうもの。それでも娘にとって一番良い選択をさせてあげたい」と当時を振り返った。 娘も別日に行われた同番組インタビューにて「母はとても勇気のある人。私や兄弟に対しても、自分が一番良いと思う道へ歩けるように支えてくれた。生きる上で大切なことは家庭で覚えた」と話した。

ヘベッカの選手としての道のりも険しいもので、これまでに三度の手術を行い体操を辞めることも考えたそうだが、家族とコーチに励まされながら、東京オリンピックの切符を手にすることができた。
振付師であるホニー・フェヘイラは2016年の大会からビヨンセの楽曲を選んでおり、今回いきなりファンキ・カリオカという路線変更にヘベッカは少し驚いたそうだが、「この曲の方が私っぽい!ブラジルっぽくて良い!」と練習するうちに惹かれていったと話す。

大会で使われた音源はファンキ・カリオカというブラジルのポピュラー音楽と、クラシックの名曲をミックスしたものだ。
冒頭に流れる有名なバッハのトッカータとフーガから、まさかファンキのヒット曲"バイリ・デ・ファベーラ"(スラムのパーティー)が流れるとは、視聴者も想像していなかったのだろう。

そのため、SNSでは「ヘベッカが東京でバイリ・デ・ファベーラを舞う!」と話題になり、翌日にも大々的なニュースになった。
では、なぜそんなに"バイリ・デ・ファベーラ"のニュースが人々を興奮させたのか考えてみたい。

ヘベッカ・アンドラーデが個人総合で見せた素晴らしい演技

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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