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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

ブラジルで大麻は合法?違法?

ブラジルで大麻を所持するのは違法なのか?(photo by iStock)

2014年、サンパウロに着いて3日目の出来事だった。
とあるライヴ会場の野外スペースに出ると、煙草を吸う人達の輪がいくつかできていた。

ブラジルの煙草は変わった匂いがすると思っていたら、友人がそっと「マリファナだよ」と耳打ちしてきた。
吸っているのはTシャツにジーンズの、どこにでもいそうな20代後半から30代ぐらいの人たちだった。

マリファナの匂いを記憶した私は、それ以来、自分が宿泊している寮の目の前にある簡素なバー(学生の溜まり場)や、暗くなってから道でたむろする人々の横を通り過ぎる時にこの匂いがすることに気づいた。

サンパウロの街中で、マリファナは「特別なこと」ではないようだ。

|ブラジルにおける大麻の歴史

マリファナ(以下、大麻)は元々ブラジルの地にあったものではない。

1500年、ポルトガル人がブラジルを発見した後に、彼らは麻の種を持ち込んだが、それは船の帆やカラベラ船と呼ばれる軽快な帆船に使用するためであった。こういった繊維が取れる植物の総称をカニャモと言い、そのうち大麻は「cânhamo(カニャモ)」を綴り替えした「maconha(マコーニャ)」と呼ばれるようになった。

しばらくしてポルトガル植民地ブラジルに奴隷として連れてこられたアフリカ人は、この大麻を嗜好品として使う習慣があった。
こうして大麻はブラジルの地に暮らす黒人奴隷と先住民の間に急速に広まった。

その後、様々な病気の治療に使われるようになった大麻だったが、1920年代に変化があった。

1924年にはジュネーブで行われた第9二回国際阿片会議にてブラジル代表のペルナンブーコ博士が「大麻はアヘンよりも危険性が高い」と発言したのだ。
アヘンやモルヒネ、コカインなど同じように、大麻は薬物統制に関する条約に追加された。

この影響もあり、1930年代からは警察による取り締まりが精力的に行われるようになった。
それから現在まで、ブラジルにおいて大麻の使用は「違法」である。

2001年、ブラジル人の6.7%は「大麻を試したことがある」と調査結果があった。
しかし2006年に個人での大麻使用と所持には刑罰を課さない法案が決定され、2014年の調査では8.8%に上昇している。

|大麻はどこでも手に入る

大麻は常習者から入手元を聞いたり、時には出会い系アプリなどを利用したりすることで簡単に手に入れることができる。

自宅で使用する人もいるが、前述した通り、サンパウロのような大都市の場合、人気が少ない路地や広場、ナイトクラブに入ると大麻を使用するグループに出会う機会がある。
ブラジルで一般的な大麻の使用方法は乾燥したものを紙に巻いて煙草のようにして吸う方法だが、それを2~3人のグループで回しながら吸うため小さなグループができるのだ。道端で吸うのは殆ど10代や20代の学生らしき人々に見える。

ただし、表面上では「違法」のため、例えば家族が集う公園や一般的な喫煙所、大衆的なバー、レストランの中で使用されていることは殆どない。

とは言え、通報されたり、警察に捕まったりしても「止めなさい」と言われる程度。
ごく稀に署に連行される場合もあるが、名前を記録され再発予防の講習を受けるだけで終わるそうだ。

もし大麻使用の度に逮捕していたら、ブラジルの刑務所に入りきらないだろう。

このように個人の嗜好品としての大麻の使用と所持はほぼ見過ごされている状態なのだが、それらを「販売」することは重く罰せられる。

|大麻をめぐる問題

大麻の使用は罰せられないが「販売」は刑務所入りという矛盾をするような状態の背景には、ブラジルだけでなく南米全体の問題である麻薬紛争がある。

常習者を罰せずに、密売ルートなどを把握し麻薬組織の撲滅をする方法に切り替えたのだ。

麻薬組織による紛争はブラジルが長い間解決できない問題であり、殺人事件の多くが麻薬に関係していると言われる。
多くの麻薬組織は都市部に集中し、大麻やコカイン、クラックなどを密売する。その範囲はブラジル国内だけに留まらない。

|ブラジルの隣国は大麻合法?

それでは、ブラジルで利用されている大麻はどこからやってくるのだろう。

ブラジル国内産大麻もあるが、多く流れてくる先はブラジルと陸でつながるパラグアイである。
南米最大の大麻生産国で、生産した大麻の80パーセントをブラジルのディーラーに密売している。

両国の国境付近では、連邦警察が大型トラックや国際線バスを見張っており、荷台に積まれた大豆の下に大麻を入れた袋が隠されているなど時にニュースになっているが、小さなケースを含めるとそれ以上だろう。

大麻の生産と運送には、他に職を見つけられないパラグアイの貧しい人々が関わっている。
逮捕されるのは労働者で、肝心な麻薬密売者は逃亡してしまう。

取り締まることが出来ないならと大麻の販売を公にし、国が管理することによって麻薬紛争を失くす取り組みを行ったのは隣国ウルグアイだった。

ウルグアイは2013年末に大麻の栽培と売買を合法化する法案を可決。事前登録をした18歳以上の国民が一定量購入と販売をできるように決めた。
現在、南米で大麻が「合法」となっているのはウルグアイのみであり、ブラジルもそれに続くかと言われている。

ウルグアイ合法化以前からブラジルでは大麻合法化を求める運動は起こっており、左派である現職ルーラ大統領で実現なるかと言われているがルーラは特に言及してない。

|医療での使用と法案

しかし、医療用大麻に関しては近年大きな動きがある。

2015年に医療用大麻の処方が可能となり、2019年には国家衛生監督庁(Anvisa)の申請許可を必要とせず輸入が可能になり薬局で購入できるようになった。
ただ、医療用大麻を使ったオイルなどは非常に高価で手が届かない人々も多い。
そのため2020年にはペルナンブーコ州にてオイルを必要とする家族に州が栽培許可を出し、2022年には最高裁が医療用大麻の栽培を3人の患者と家族に許可した。

「2500年以上前に中国で大麻が医療的に使われていたことが判明している。ブラジルは大麻に対しての理解が足りず、偏見がある。医療目的の大麻に関して理解が進んでほしい」

と私に話してくれたのは、数年前にサンパウロ州の地方で配車アプリを使って呼んだタクシーの運転手だった。

おそらく30代前半と見られる運転手のブラジル人男性は、カルフォルニアの大学で医療用大麻の研究をした後、同大学にて助手として働いていたが、ブラジルの家族が恋しくなり帰国した。博士号を持っているが、ブラジルでの就職先が見つからずに運転手としてアルバイトをしていた。

医療用大麻への理解が少しずつ進む中、彼のような研究者がブラジル国内で活躍できる場所が増えてほしいと願う。

■参考までに
公的支援なしで医療用大麻を使用する場合、月に1,500~2,000レアル(約45,000円~60,000円*)が必要と言われているのに対し、ブラジルの最低月収は1,320レアル(約40,000円*)である。
*2023年6月、1レアル約30円

|ゾンビ化?「スーパーマコーニャ K9」の誕生

実際のとこと、大麻とは比べ物にならないほど常習性が高いといわれるクラックの取り締まりをブラジル政府は早急に対処しなければならないだろう。
クラック(ポルトガル語では「クラッキ」と発音する)とは、コカインに不純物を足して安価にした石のようなドラッグである。
音楽院時代の友人は若い頃、有名なバンドで演奏していた頃にコカインを始め、お金がなくなってからはクラックに手を出し全財産を失った。回復するためには入院し、根気強い治療が必要な中毒性の高いドラッグである(コカインは高価なため、富裕層が使用することが多いと言われている)。

サンパウロ市内には30年以上も続くクラック常習者が集まるエリア「クラコランジア」がある。

サンパウロ市内で最も古く美しい駅の1つであるルース駅の西側に位置し、夜は常習者がクラックを求めて無法地帯となる。昼間も麻薬の取引は堂々と行われ、周辺はドラッグにより家や仕事を失った人々が寝泊まりし、ドラッグを買うために盗みや強盗を繰り返しているため周辺の治安は悪い。パンデミックによりそれが悪化し集団での窃盗や暴動も増え、警察が唐辛子スプレーを撒く事態となっている。地元の人々も近寄らなくなり商店やレストランも移転が相次いでいる。

近年はクラコランジアでスーパーマコーニャとして知られるK9(カーノーヴィ)が流通し始めた。
K9は大麻の成分THCを科学的に再現したもので、大麻使用時の100倍の効果があるとされる。

大麻(マコーニャ)の常習者をターゲットにするためにスーパーマコーニャと呼ばれているが、大麻とは一切別物である。
大麻よりも安価で購入が可能なため、市内から離れたスラム街でも人気が高い。

しかし、その強い効果からK9はゾンビ・ドラッグとも言われており、その通り常習するとゾンビのようになってしまう。
今年だけでも102人が過剰摂取による解毒治療が必要となった。


クラコランジアで写真を撮影するのはリスクが高いため、先週起こったクラコランジアの様子をご覧いただければと思う。
配車アプリのタクシーが周辺を通過した際に、常習者たちに攻撃された。

ブラジルは大麻に対して比較的寛容な部分もありながらも、麻薬組織との関わりや、危険性の高いクラック、K9など新たなドラッグへ手を出すきっかけとして最も気軽に始められる大麻の使用が問題視されることも多い。

昨年行われた大統領選挙にて「左派のルーラが当選したら大麻が解禁される!」と熱狂的なボウソウナロ大統領支持者たちがフェイクニュースで世間を煽っていたが、当選したルーラは前政権にて"失われた"4年を取り戻そうと外交に力を入れており、それどころではなさそうだ。

しかし、医療用大麻については前向きに検討するべきとの声も多い。
患者を救うことできるだけでなく産業的な可能性もあるため、政治に関係なく議論される必要があるだろう。

嗜好品としての大麻に関しては、ブラジルで合法となるには時間が必要だろう。
今はドラッグ常習者へ手を差し伸べること、麻薬組織の撲滅に引き続き力を注いでほしい。

 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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