パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
2023年バゲットコンクール グランプリ受賞のバゲットは超絶おいしかった!
毎年、パリ市が主催している「最優秀バゲットコンクール」は、今年で30年を迎え、毎年、パリのパン職人が腕を競いあい、その年の最高のバゲットが選ばれています。昨年末、フランスのバゲットは念願の「ユネスコ無形文化遺産」に登録されたフランスの誇る食文化の一つでもあり、この文化遺産登録の際には、「今さら?バゲット?」と思わないでもありませんでしたが、たしかにフランスの食文化の重要な位置を占める食品でもあります。
バゲットとバゲットトラディショナル
このコンクールにしても、文化遺産登録にしても、その対象となっているのは、普通のバゲットとは区別されているもので、「バゲットトラディショナル」と呼ばれるものは、バゲット特有の職人技術と製法を用いられたもので、小麦粉、塩、水、イーストなどの材料の選別から気温などによって地域ごとに風味が変わることもある中での確かな技法、職人技であると強調されています。また、この「バゲットトラディショナル」を名乗るためには、冷凍をせず(作り置きはできないということ)、添加物などを一切使わず、その場で製造されているものという縛りがあります。
一般的にパン屋さんに行くと、バゲットは普通の「バゲット」と「バゲットトラディショナル」は、別々に存在し、値段も若干バゲットトラディショナルの方が高く設定されていますが、それとて値段の違いといっても大した差があるわけではありませんが、やはり味は数段違います。
2023年バゲットコンクール グランプリ受賞のバゲット
パリのバゲットコンクールでグランプリを受賞した職人には賞金4,000ユーロ(約60万円)とその年一年間エリゼ宮(大統領官邸)にパンを納める公式サプライヤーとして指名されます。何よりもバゲット職人にとっては最高の栄誉とその年、最高のバゲットという称号は何よりの栄誉であり、〇〇年バゲットグランプリ受賞は、その後もそのお店の看板になり続け、お墨付きバゲットとして生き続けることになります。
今年の審査には、同時刻に出品された176本のバゲットの中から、まず規定基準にあったもの126本が選定されて、同じ条件のもとで審査が行われました。126本のバゲットの中から、その製品の外観、調理の質、固さ、重量、香り、そして味などを総合して審査されました。
グランプリにふさわしい煌びやかさは微塵も感じられないごくごく普通のパン屋さん 筆者撮影
今年のバゲットコンクールのグランプリに輝いたのは、パリ20区にある「オー・ル・ヴァン・デ・ピレネー(Au Levain des Pyrénées 44 rue des Pyrénées 75020 PARIS)」でした。ここのところ、数年にわたり、その年のバゲットコンクールが発表されるたびに、今年最高のバゲットを食べてみるのは、私の楽しみの一つになっていて、今年もさっそく最高のバゲットを買いに行きました。
お店はどこにでもありそうな、こじんまりとしたお店ですが、バゲットコンクールの結果が発表されたばかりということもあり、「今年最高のバゲット」のために、お店の前には行列ができていて、行列の中からも「今年最高のバゲット」という言葉が漏れ聞こえてきます。行列の後ろの方から覗いているとバゲットの入った籠には残りがもうあと数本のみ・・これではわざわざ20区まで買いにきたのに、まさか買えない??と焦ったものの、行列を見込んでか次から次へと焼きあがってくるバゲット、手に持つのも熱いくらいの本当の焼き立てホヤホヤのバゲットを手に入れることができました。店員さんには、おそらく数日の間に数えきれないほど言われたであろう言葉「グランプリ、おめでとうございます!」を言って、バゲットを受け取ると店員さんも「ありがとう!」とにっこりとして、とても嬉しそうでした。
これは、このアツアツをぜひ食べたい!とお店を出るとすぐにバゲットを折ってみると、バゲットからはホカホカの湯気とともに、ほわ~んと漂ってくる香ばしい小麦の香りは感動的なものでした。その場でバゲットをちぎって食べるとカリッとした外側とふわっとしながらも、そこそこもっちりと弾力も感じられるバゲットにもう家に帰る前に1本食べきってしまうのではないかと思うほどでした。私は、思わず、内心、エシレバター持ってくればよかった・・と思っていたのですが、そばでやはりすぐにバゲットを頬張っていた男性は、「これにチーズがあれば言うことない!」と言っているのが聞こえてきて、みんな同じようなこと考えているんだな・・とこっそり面白がっていました。
焼き立て、アツアツということだけでも、かなり美味しさが引き立ってしまうものなので、これが冷めてみたらどうかな?とも、ちょっと思ったのですが、これが冷めたら冷めたで、アツアツの時には感じきれなかった香りと小麦粉本来の味に加えて、ちょっぴりしっとりとした感じも加わって、これがまた絶妙でした。
毎年、「最高のバゲット」と呼ばれるバゲットを食べてみると、正直、「去年の方が美味しかった・・」と思うこともあるのですが、今年は正真正銘、本当に美味しいバゲットでした。
«J'ai appelé ma femme, elle m'a dit "C'est pas vrai, tu fais des blagues ?'»
-- Le Parisien (@le_Parisien) May 12, 2023
Tharshan « n'y connaissait rien en boulangerie » et pourtant il vient de remporter le concours de la Meilleure baguette de la capitale.
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フランスで美味しいもの
美食の街としても知られ、フランスには、美味しいものがたくさんありますが、正直、私はフランスで一番、美味しいのは、パンとバター、チーズではないかと思っています。フランスにはたくさんの種類のパンがあり、それこそピンキリでもありますが、概してバゲットは、一番、手軽で間違いなく美味しい食べ物の一つであると思います。このバゲットコンクールでグランプリを受賞したお店でさえもグランプリをとったからといって、特別に値段が高いわけでもなく、バゲットトラディショナルは1本1ユーロ35セント、この円安をもってしても1本200円程度です。本当にヘタなレストランに行くくらいだったら、このバゲットにバター、あるいはちょっとチーズくらいあれば、充分に満足できてしまいます。
グランプリ受賞後のお店は栄える
実際に、パリでは、バゲットコンクールの他にクロワッサンコンクールなど、パン職人にとっては、数々のコンクールがあり、パリの街を歩いていると、このコンクールでグランプリ、あるいは入賞したという小麦をモチーフにしたエンブレムを掲げているパン屋さんをけっこう見かけます。バゲットコンクールだけとってみても、30年間続いているわけですから、グランプリだけでなく、「〇位入賞」などという称号も含めれば結構な数になります。今回、グランプリを受賞したお店も今年の分はまだ出ていませんでしたが、2018年には3位入賞というエンブレムが掲げられていました。
このバゲットグランプリの称号は、その後もえらいチカラを発揮するようで、このバゲットを買って帰る帰り道、数年前にグランプリを受賞したお店の前を通ったら、当時はごくごく普通の、なんだかあんまり冴えないな・・とさえ思えるような感じだったお店が見違えるように立派になっていました。
今回、グランプリを受賞したのは、2006年にフランスに来てからパン職人になったというスリランカ出身の男性です。フランスの伝統的なバゲットの職人なのにフランス人ではないことも、ちょっと残念なような、逆にフランスらしい感じもします。パリでは、一部、日本の食パンブームのようなものも起こっており、日本人のパン職人も活躍していますが、このバゲットコンクールでは、今のところ日本人の名前を聞いたことはありません。器用で職人気質の人が多い気がする日本人がいつかこのバゲットコンクールに登場する日が来たら、それこそ同じ日本人として、どんなに嬉しいことかと思っています。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR