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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

降車時にコートが挟まっての死亡事故 パリのメトロの安全性

死亡事故の起きた Bel Air駅のホーム ホームに駅員はいない  筆者撮影

パリ市内はメトロの線が張り巡らされていて、メトロでほぼ何処へでも行くことができて、交通手段としてはとても便利で、道に不案内だったりしても、メトロに乗ってしまえば何とかなるので、ついついメトロを利用してしまいます。しかも、パリ市内は、道に迷ったりしても、少し歩けばどこかのメトロの駅には行きあたるくらい、駅と駅の間隔も短いところが多いのです。

特にここ数年はパリ市内は来年のパリオリンピックを目前にして、外国からの観光客を見据えてのことなのか、やたらとメトロの駅は工事が多く、夏の間、パリジャン・パリジェンヌがバカンスに出かけている間や夜間などは工事のために駅が閉鎖になっていることも多く、いつの間にか、駅がこんなにきれいになっていた!というところや、走っているメトロにも新車が増えて、冷房完備になったり、中には携帯の充電ができるようになっている車両などもあり、驚かされます。

しかし、これは全線共通のものではなく、その路線によって、かなり差があることも事実で、1号線や14号線などの無人運転の電車などは、かなり車両もきれいで、ホームなどもかなり徹底してガードされていて、安全性も保たれているものの、その他の路線はこれまでどおり運転手が運転し、駅のホームなどは何のガードもない上に、駅員の配備もされていない状態で、中には、まだ手動でドアを開けるような車両も多く走っています。この、かなり硬くガッチャンという感じで回さなければならないハンドル式の手動ドアは誰も乗り降りしないドアは駅についても閉まったままで、無駄もないし、どことなく趣がある感じがして個人的には好きなのですが、あらためて考えれば、同じパリ市内でも、路線によって、かなり差があることも否めません。

IMG20230425151854.jpg相変わらず手動ドアの車両 このハンドルをぐるっと回してドアを開閉します かなり固い感触です  筆者撮影

メトロ6号線で起こった不幸な死亡事故

日常、ストライキをはじめ、トラブルが絶えないパリのメトロではありますが、ここ1ヶ月は、特にそれが単なるトラブルでは済まされない死亡事故が立て続けに起こっています。メトロや電車などの死亡事故といえば、一番に思いつくのは飛び込み事故だと思いますが、今月、起こった事故は、降車時に慌てて降りようとした女性(45歳)のコートがドアに挟まり、それに気付かないまま出発してしまったメトロに引きずられ、身体の一部が車両とホームの間に挟まり乗客が死亡してしまったというちょっといたたまれないような悲惨な事故でした。

事故が起こったのは土曜日の午後4時頃のことで、被害者の女性は夫と子供と一緒だったということで、きっと何気ない休日の一瞬の出来事だったのだと思います。パリのメトロには特別なことがない限り、駅のホームに駅員はおらず、電車の発着時の安全確認は駅のホームからは行われていません。駅のホームにはいくつかの監視カメラが備え付けられており、運転手がそれを確認して出発します。

事故の起こった6号線のBel Airという駅は地下鉄とはいえ、地上に出ている部分の駅で、駅のホーム自体もそんなに長い駅ではありません。そもそもパリのメトロというのは、発着時のアナウンスなどはほとんどなく、ドアが閉まる際にブーッとブザーが鳴る場合もあれば、全く鳴らない場合もあり、ドアの閉まり方もかなり強い感じで閉まります。かなり乱暴な感じの閉まり方です。時には慌てて乗り降りする人のバッグなどが挟まってしまって、それを周囲の人々が手伝って、ドアをこじ開けて、バッグなどを引き抜いていたりする様子をみかけることもあります。しかし、バッグなどの場合は完全に押しつぶされることはないので、逆にドアとドアの間に隙間ができるために周囲の人がドアの間に手を挟んでドアをこじ開けるということも可能なのでしょうが、コートの場合は、かなりピッタリ閉まってしまったドアに挟まれた場合、手を挟んでドアをこじ開けるというようなこともできなかったのかもしれません。

乗客がなだれ降りて、コートがドアに挟まって、電車が出発するまでは、おそらく、ほんの数分のことで、もしかしたら、被害者本人ですら、コートがドアに挟まっていたことに気付いていなかったかもしれないし、気付いていたとしても、それからコートを引っ張ったとしても、電車のドアが閉まってから電車が発車するまでは、全くの猶予がなかったのではないかと思われます。その場面を想像するだけでもかなり狂暴な出来事です。

事故直後、すぐに救急隊がかけつけましたが、救急隊ができたのは死亡確認だけだったようで、ほんの一瞬のうちに起こった悲劇的な事故でした。一緒にいた家族にとっては信じがたい悪夢のような出来事であったに違いありません。運転手はただちにアルコールと薬物検査を受けたそうですが、陰性であったそうで、運転手自身も大変なショックを受けているそうです。

メトロ6号線はシャルルドゴールエトワール(凱旋門)からモンパルナス駅などを通って、ナションまで行くパリを西から東に通っている路線で、時には地上に出て、セーヌ川を渡す陸橋の上を走ったり、地上に出たり、地下にもぐったりと時には車内からエッフェル塔なども眺められたりする路線でもあり、平日は約5分おきにやってくるので、あまり待ち時間もありません。しかし、考えようによっては、5分おきに次の電車がやってくるということは、一駅あたりの停車時間もかなり限られているということなのかもしれません。

今ではすっかり慣れてしまって、「こんなもんだ・・」と思っていたパリのメトロも考えてみれば、ろくな車内アナウンスもなく、電車は勝手に来て、勝手にみんな降りて、ドアがかなり強力に閉まり、勝手に出発するので、日本の地下鉄などから考えたら、危険極まりない状態かもしれません。乗っていても、うっかりすると、次はどこの駅だったか、うっかり乗り過ごしてしまうこともあったりします(新車の場合は現在地が表示されている)。この間、メトロに乗っていて、珍しく「ヴォートルアタンシオン・シルブプレ!(アテンションプリーズ)」とアナウンスが始まったので、「おっと、アナウンスするようになったのか?」と思ったのは、私の甘い妄想で、「プロブレムテクニックのためにしばらく停車します・・」とのことでした。そう、たいていメトロのアナウンスは電車が動かなくなる時なのでした。

しかし、考えてみたら、1号線や14号線などの自動運転の路線では、「マスクは強く推奨されています」とか、「スリには気を付けてください」などというアナウンスが何ヶ国語でも入ったりする(日本語もある)ので、これもまた差が大きい点の一つかもしれません。

また、パリのメトロはアナウンスがほとんどないだけではなく、フランス人には、後ろから人が来ているから急いで電車に乗って、後ろからくる人のために詰めて乗ろうとかいう気持ちがないので、うっかり慌てて乗ったりしようもんなら、「押すな!」みたいな顔で睨まれたりしかねません。いやいや睨むだけでなく、はっきりと、「そんなに押すな!」とはっきり言われたりもします。降りようとしている時もまた、同じようなことが起こります。そのうえ、駅のホームには、安全対策のバリアがないところも多い上に、安全を確認するための駅員も配置されていません。こう考えてみれば、今回のような事故が起こることはなんら不思議なことではなかったかもしれません。

この数日後に事故現場となった駅に行ってみましたが、事故現場にはお花でも手向けられているものと思いきや、まるで何もなかったかのような風景には、これはこれで驚きでした。死亡事故があったからといって、人員が配置されているわけでもなく、そもそも、このニュースはあまり大々的には報じられていません。もちろん関係者の間では注意喚起くらいはされているものと思われますが、これでは改善されないのではないか?と思ってしまいます。

相次ぐ駅での死亡事故 6号線の次は13号線

この6号線の事故が公表された時点で、実は1週間前にもRER B線(パリ郊外線)のシテ大学駅(Cité universitaire・パリ市内)で14歳の少女が線路に転落して電車にはねられて死亡するという事故が起こっていたことが明るみになったばかりでした。この駅にもホームと線路の間にバリアがない駅だったようです。このバリアはプラットホームドアと呼ばれているそうで、現在、パリでこれが設置されているのは、1・4・14号線と13号線の一部のみだそうで、そもそも、区間内に歩いて移動できるほどの間隔であるメトロの駅の数は多く、その全てにプラットホームドアをあらためて設置するのは、大変な予算と時間がかかります。

しかし、そんな話も冷めやらぬうちに、またその数日後には、今度は13号線でホームから線路に落ちた2名が電車にはねられて死亡したという事故が再び起こっています。これは、深夜に起こった事故で、しかも、口論の末、自発的に線路に降りた・・という話なので、6号線のような話とはまた違いますが、こちらの方も運転手は即、薬物・アルコール検査(陰性)がなされたものの、やはり相当なショックを受けているようです。

たまに日本に一時帰国すると、うるさいくらいアナウンスをし、各駅ごとに指差し確認しながら、数分ごとにやってくる電車の安全確認をしている駅員さんなどを目にしては、「ここまでする?」などと思わないでもありませんが、こういう事故が起こっているパリに比べたら、各段に規模も大きく、人も多く忙しく人が動き回る東京の地下鉄や電車がほとんど事故もなく、しかも正確な時間を守って動いていることは、日本人ならではのきめの細かい気配りと対策に次ぐ対策の積み重ねで日本人の偉業の一つであると思わされます。

いずれにしても、今月だけでもう4人も死亡しているパリのメトロ・・通常は、どちらかといえば、ホームに落ちるとか、電車に挟まるとかいうよりも、スリなどの被害に遭わないように気を付けている私ですが、ホームに落ちない、ドアには挟まれないように注意しなければと、あらためて肝に銘じる事故でした。パリにいらっしゃる機会のある方はメトロを利用する場合は慌てることなく、充分に気を付けて利用されることを切にお勧めいたします。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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