パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
フランスのマクドナルド店内飲食の使い捨て容器禁止とフランス人のゴミ問題
フランスのファストフード店舗(マクドナルド、バーガーキング、KFC(ケンタッキーフライドチキン)などの店内飲食でのこれまでの使い捨て容器が今年の1月1日から禁止になることが発表されたのは、昨年末のことでした。これまで環境問題には、かなり積極的に取り組んできたフランスが、さらにもう一歩、踏み込んだ措置に取り組むことになりました。
マクドナルド・フランスは、これまでにもすでに環境問題への取り組みとして、プラスチック容器は一切、排除するために、包装用のパッケージからプラスチック製品から紙に切り替えるほか、コカコーラや清涼飲料水などの紙コップで提供していたもの以外のミネラルウォーターやスパークリングウォーター(EvianエビアンとBADOITバドワ)などのプラスチック容器のまま提供していた飲料を一切廃止し、これらのミネラルウォーターやスパークリングウォーターに代わるものとしてマクドナルド独自の水 Eau by McDonald's(オー・バイ・マクド)の発売を開始しました。ところが、この水がマスコミによる隠しカメラで撮影され、マクドナルドのレストランのマネージャーの証言を含む取材により、マクドナルドで販売されている水が濾過された水道水に他ならないことが発覚し、「マクドナルドでは、水道水が利益の源」「今世紀最大の詐欺」「通常、フランスのレストランでは、水道水は無料で提供されるものであり、それを濾過しただけのものに金を取るとは何事であるか?」などと大騒動になったこともありました。
しかし、当のマクドナルド・フランスはそんなバッシングはどこ吹く風で、これまでマクドナルド・フランスで販売されていた、平均して7500万本のボトルが、この新しい取り組みにより、1,000トン以上のプラスチックの消費を抑えることができると胸を張っていました。
マクドナルド再利用可能容器の盗難続出
そして、さらに一歩、環境問題への取り組みが進んだのが、今回の店内飲食に関しての使い捨て容器から再利用可能容器への移行で、これは、大手ファストフードチェーン店に対する国が定めた規制です。これはテイクアウト販売に対しては従来どおりということで、店舗側はダブルの容器を手配することになります。
考えてみれば、レストランでの飲食で再利用可能な食器を使うことは、ごくごく普通のあたりまえのことで、これまでそうでなかったことの方がおかしい気もしないではありません。
しかし、この再利用可能な容器に関して、開始早々に浮上したのは、この容器の盗難問題で、割れないコップはもちろんのこと、フライドポテト用のマクドナルドのオリジナルの容器が可愛いと人気を呼び、これは持ち帰って、家でペン立てに使えるとか、メガネ立てに使えるとか、また、一部のコレクターに人気が集まり、盗難が相次ぎ、マクドナルドはその対策に追われています。
フランスでは、治安うんぬん以前に、「もらえるものはもらっておく・・」(実際には、もらえるものではないのですが・・)ということに、そんなに高いハードルが存在するとも思えず、この容器がそんなに人気を呼ぶことは予想外だったにしろ、盗難問題が起こることは十分に想像がつくことではあります。実際に試験的に12月の段階でKFC(ケンタッキーフライドチキン)の一部の店舗で、この再利用食器を使い始めた結果、やはり盗難問題が起こり、再利用食器にICチップを入れたりすることで、盗難防止に繋がったなどという話も出てきています。環境問題へ対応するのも、なかなかコストがかかることです。
しかし、これらの店舗で使用後すぐに捨てられてしまうパッケージは年間18万トンも発生しているそうで、これだけでも、相当な量のごみ削減に貢献できるとともに、まずは、大手ファストフードチェーン、バーガーキング、KFC、クイック、マクドナルドに対して課せられるものとなれば、ある意味、人々の意識改革を促すものにもなりえるとフランス政府は期待しているのです。
政府の意図する意識改革も虚しいフランス人のゴミに対する意識の低さ
フランス政府は一般大衆が多く利用するこの大手ファストフード店での試みによる国民の意識改革を期待してはいますが、現実のフランス人の環境問題に対する試みは、その多くが政府主導のみのもののみという感じがしないでもありません。スーパーマーケットのレジ袋などは、かなり前から有料になっていますし、スーパーマーケットでの野菜などのプラスチック包装が禁止されたりしています。プラスチック包装に関しては、あまり徹底しているとも思えませんが、いずれにせよ、日常生活の細かいこと少しずつを積み重ねていくしかありません。
しかし、現実のフランス人の生活を見ているとゴミなどの扱いも非常に雑で、最近はそれでも、街中のゴミ箱などにもゴミを分別して捨てることができるような場所が少しずつ増えてはいますが、一般的な家庭用のゴミなどは、かなり大雑把で、逆にそれに慣れきってしまっている私などは、たまに日本に一時帰国したりすると、日本のゴミ分別の厳しさが「うわっ!日本は大変!」とちょっと恐れをなしてしまいます。
フランス人には、箱を潰して捨てるとか、そういう観念はない 筆者撮影
燃えないゴミ、燃えるゴミ、資源ゴミとペットボトル、缶、瓶・・などと、それぞれ曜日も時間帯も違い、これを難なくこなしている日本人はすごいな・・と思います。それに比べてフランス人、まず、箱などを潰して捨てようなどという頭はなく、ごみ収集用の大きなタンクもあっという間に溢れんばかりになってしまいます。
以前、娘が大学生の頃にシェアハウスで暮らしていた頃、シェアハウスですから当然、キッチンなどのスペースは共有で、そこでは当然、掃除やゴミ捨ての問題が生じますが、彼女にとっては、ある程度のゴミ分別は当然のこと、箱は潰して捨てる、瓶は洗って捨てる・・ということをあまりに周囲のフランス人がしないことに逆に驚き、彼女は、あっという間に年上の住人も含めたそのシェアハウスの寮長のような存在になったらしく、ある日、隣の部屋から「ちゃんとしないと〇〇に怒られるよ!」と聞こえてきた・・という話を娘から聞いて、母親としては、なんとも苦笑いするしかなかった記憶があります。
人によっては、この分業社会のフランスで自分たちがちゃんとしてしまったら、ゴミ分別の人の仕事を奪うことになるなどと豪語し始める人までいて、この意識改革は、並大抵のことではありません。
パリの街並みはたしかに美しい場所も多いのですが、こんな調子なので、清潔かと言われれば、決してそうではありません。JDD(Le Journal du dimanche)の行った世論調査によれば、実際にパリの住民の84%は自分たちの街が汚れていると考えており、73%が清潔さとその維持に不満を感じていると答えています。パンデミックの影響で街中が消毒されたり、人出が減ったり、一時、飲食店が閉鎖されたことで、一時は、パリの街中も清潔になりましたが、現在では、フランスには普通の日常が戻り、それとともに街中のゴミも戻ってきています。パンデミックにより、日常生活で衛生を保つことがどれだけ大切なことかを学んだはずなのに、もとの木阿弥になっています。
パリ市は街を清潔に保つために、実に年間5億ユーロもの金額を費やしているにも関わらず、パリの住民が不満に感じるほどにしか、その成果は上がっていません。それどころか、パリ市がこの街を清潔に保つことに目を瞑り、改善しようとしていないパリ市に抗議するためのデモまで起こることがあるほどで、彼らはパリが汚れているとは思っても、自分たちが汚しているとは思っていないようです。
話は、ゴミ問題に逸れてしまいましたが、今回のファストフードの容器問題などにしても、多少コストがかかっても、積極的に環境問題に取り組んでいるということは、今や企業のPRやある種のステータスでもあります。いずれにしても、フランスの格差社会は意識の格差でもあり、環境問題へ取り組むことをステータスとする層とそんなことはおかまいなしな層が同居しています。
年明けから異例の暖冬続きのフランスですが、寒さが厳しくなくてホッとする反面、これってやっぱり異常かも・・とそら恐ろしくも感じ、環境問題は、やはり一つ一つの積み重ねでなんとかしていかなければならない問題であると思っています。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR