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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

イル・ド・フランスの高校での暴力事件から見える教育格差とフランスでの学校選びの重要性

娘が12年間お世話になった学校  この学校には感謝しかない      筆者撮影

フランスでは、先週、イル・ド・フランスの高校の教室で起こった暴力事件がSNSで拡散され、校内暴力についての問題が盛んに取り上げられています。授業中、教室から退出しようとしていた生徒がそれを止めようとする教師と口論の末に、ドアの前に立ちはだかった教師を無視して無理矢理、ドアを力づくで開け、教師が跳ね飛ばされて床に叩きつけられる様子を教室内にいた数名の生徒が動画撮影しており、それがSNSで拡散されたものです。

教室内の嘲るような囃し立てる声、それにもかかわらず、それに屈せず生徒を止めようとする教師は勇敢といえば勇敢ですが、この生徒を止めようとする者は誰もいないどころか、危機感を感じずに動画撮影している教室の雰囲気というものが、恐ろしい限りでもあります。

現在、この暴力事件を起こした当事者である生徒を含め、動画を撮影してSNSで拡散した生徒は、警察に勾留されています。教師は、肉体的なダメージとともに、精神的なショックを受け、現在、病欠期間をとり、来週から学校に戻る予定になっていますが、事件を起こした少年は、予防措置のために学校施設内立ち入り禁止になり、今後の措置は、懲戒評議会に委ねられています。この生徒には、さっそく執行猶予付き7ヶ月の有罪判決が下っています。

この騒ぎを聞きつけたマスコミが同校、及び同級生の生徒にインタビューを行っていますが、「彼は衝動的なところはあるものの、特別、暴力的な生徒ではなかった・・」「今回は、動画撮影されて、SNSで拡散されたために大騒動になってはいるけれど、これは、そんなに珍しいことではない・・」などというもので、それらの証言は衝撃的であると同時にさもありなんという気もしたのです。

社会格差は教育の格差から・・

フランスはれっきとした格差社会ですが、その格差は恐らく日本よりも大きく、超優秀ないわゆるエリートとよばれる人材はごくごく一握りで、彼らは優秀であるがゆえに、さらに特別な教育を勝ち取り、またその機会を与えられて、エリート街道まっしぐらに進んでいくのですが、また、その逆のクズは、限りなくクズで、日本とは桁違いのクズが存在するのも事実で、それは、小学校・中学校の低年齢層ですでに道標ができてしまっているような気がしています。

いわゆる貧窮層の多い地域では、概して親の教育への意識が低いこともあり、子供をやたらとつくって、子供のために給付される援助金で暮らしているような家庭もあるのですが、このクズ予備軍は、治安がさほど悪くもない、比較的、良い地域でも存在するのが恐ろしいところです。フランスは、子供にかかる教育費をかなり国が負担してくれるため、学費も比較的安く、そういう意味では子供は育てやすい環境であるとも言えますが、だからと言って、親が無関心でいられるほど、甘くはありません。

私が最初に子供の学校について危機感を覚えたのは、当時、私の勤務先(パリ1区)の近くにあった中学校の生徒の素行がかなり酷い様子を目にしてからで、その時点ではまだ娘は近所の公立の幼稚園に通っていましたが、将来、娘の進んでいく学校がこんな様子では大変だ!と思い始めてからでした。パリの中心地の家賃だけでも、相当な値段のするであろう地域の学校(つまり貧窮層ではないということ)でこれということは、娘の学校は真剣に選ばなければならないと思ったのです。

そんなわけで、周囲の子育て経験者に話を聞いていくと、「学校は気をつけて選ばなければ、日本人の常識からしたら、考えられないようなことが起こる。高校はある程度のレベルの学校に進めれば、公立でも良いところはあるけれど、それ以前の小学校・中学校はできれば、私立の学校に入れたほうが良いよ!」と皆、口を揃えて言うのでした。

そんなことを考え始めてから、まもなくして、学校では教師のストライキが勃発し、1ヶ月近くも学校が閉鎖という出来事が起こったりしたのも、私が娘を私立の学校へ入れようという決意を一層、強くしたきっかけにもなりました。学校がストライキをしているからといって、仕事を休むわけにもいかず、さりとて娘を家に置き去りにすることもできずに、その間、勉強を見てもらいながら娘を預かってもらえる人を探すのには大変な思いをしたのです。

それから調べてみると、私たちの住む地域には私立の学校は1校のみで、小学校終了までは送り迎えが必須なフランスにおいては、そうそう遠い学校というのは選択肢にはなく、その学校に申し込みをしたのですが、時すでに遅しで、定員オーバー。私立とはいえ、日本のようなお受験のないフランスでは、早々に入学申し込みをしていなければならなかったのです。とりあえず、娘の名前はウェイティングリストに載せてもらうことになり、空きが出るまでは、とりあえず、地域の公立の学校に通うことにしていました。

その私立の学校は、カトリック系の学校ではありましたが、宗教色はあまり強くはなく、カトリック教徒以外の生徒も受け入れる、幼稚園から高校までの一貫教育の学校で、かなりの進学校でもあり、バカロレアの合格率100%を誇っているという学校でした。娘の学校生活のスタートを気持ちよく順調にスタートさせてあげたかった私は、ただ、黙ってひたすら待つのではなく、入学試験はないとはいえ、この学校は、少しでも優秀な生徒を集めたいと思っているに違いないと睨み、ダメもとでそれまでの娘の成績表を学校に送りつけると、幸いなことに学校からすぐに「面接に来てください」という連絡をもらい、9月から学校が始まるという直前の夏休みの間に急遽、娘の入学が許可になりました。

子供の顔つきで一目瞭然・全く別世界の学校

ギリギリセーフで入学許可が下りて、その学校に手続きに行くと、まず、そこにいる子供たちの顔つきが全く違うことに驚きました。子供とはいえ、どこか凛とした表情で落ち着きが感じられ、これほどまでに子供たちの顔つきに表れるというのは学校教育というものは凄いものだと思いました。はっきり言って、職場の近くにあった学校の生徒たちとはまるで顔つきが違い、それだけでも、「あ〜ここの学校なら、きっと大丈夫だ!」と思いました。実際に入学してみると、その学校は授業だけでなく、言葉遣いや生活態度に関しても非常に厳しい学校で、言葉遣いが悪かったり、生活態度が悪かったりすると、即刻、注意され、成績表にも記載されていました。生徒が教師を睨みつけようものなら、「目を伏せなさい!」と一喝されます。個性や自由、自己主張を尊重するフランスで、これだけ厳しいというのは意外でもありますが、この自由な社会の中での教育だからこそ、学校としての教育を全うするには、より厳しさが必要な時期もあるのかもしれません。

先日の高校での暴力事件で、同校の生徒たちが、「別に特別な出来事ではなかった・・」と語っていますが、彼らにとっては、つまり、それがあたりまえのことになっていたわけです。それは、それまで受けてきた教育によって、その「あたりまえ」の基準が変わっていくのです。

娘が通っていた私立校では、授業の進み方も早く、ついていけない子供、態度の悪い生徒は容赦なく落第、もしくはやんわりと転校を促され、娘が小学校から高校まで通う間にいつの間にか姿を消している生徒もいました。私立だからこそ、成り立つことではあり、人を選び、排除していく方法は人道的ではない気もしますが、それは同時にその学校の大多数の生徒を守ることにも繋がっているのです。中学校から高校にかけては、特に難しい時期のようです。この頃になると学校の規模も少し大きくなり、越境入学してくる生徒もいましたので、あまり、いなくなった生徒は目立ちませんでしたが、気がつけばいなくなっていた生徒もちらほらとおりました。

フランスでは学校にもよりますが、私立とはいえ、市やカトリックなどからの援助もあり、授業料等もさほど高額ではありません。しかし、学校内で行われる授業以外のクラス、例えば、天体観測や農業体験、乗馬、スキー、交換留学など体験できることは、より幅広いものです。校内の規律は正しく、親の教育に対する意識も高く、年に一度行われていた年度始めに行われる保護者説明会などに参加すると、親たちがあまりに前のめりで、一生懸命で、これがフランス人?と面食らうほどでした。

今から思うと、そこは別世界だった・・

入学してみれば、私も娘もその学校に非常に満足していたので、当然、他の学校には目が行かなくなり、私は、その学校の教育がフランスの教育なのだと思い込み始めていました。しかし、同時に、「フランスの教育はこんなに素晴らしいのに、どうしてこんな社会なんだろう?」と疑問にも思っていました。しかし、娘の通っていた学校は決して一般的な学校ではなく、かなり特別な学校であったということに後になってから気がついたのでした。大多数の子供たちの通う公立の学校は全然、違うのだということも・・。

小学校から高校まで同じ学校で過ごした娘は、その学校での一部始終が彼女にとっての「あたりまえ」の基準になっており、ある意味、狭い社会の中で、比較的同じ価値観を持つ人々の環境で育ちました。それでも夏の間はコロニーといって、スポーツなどを楽しむ合宿のようなものに参加していたので、そこでは全国の色々な環境の中で育ってきた子供たちと触れ合う機会などもあり、「世の中にはこういう人たちもいるんだ・・」などということを彼女はコロニーに参加するたびに言っていました。それは、彼女が高校生の頃、同じコロニーに来ていた女の子が「バカロレアにパスできるかどうか心配」していたことに彼女は仰天していました。嫌味に聞こえるかもしれませんが、彼女の学校では高校2年までで、ほぼ、高校での履修科目は終了し、残りの一年間はバカロレアの準備のための3時間〜4時間までに及ぶ予備試験のようなものが毎週のように行われており、バカロレアにパスするのは当然のことで、パスした上で「トレ・ビアン(A,B,C,D で言うA)」を取れるかどうかと言うことが問題なのでした。通年、バカロレアの合格率は全国で80%程度ですから、パスさえすることできるので良しとするならば、それほど不可能なことではありません。一方、その中で「トレ・ビアン」を取れるのは、昨年の統計からすると13%程度でなかなかハードルが上がります。実際に娘のクラスでは、その「トレ・ビアン」がクラスの50%超えという驚異的な数字を記録し、その時の表彰式の校長先生の有頂天な得意げな様子は印象的でした。

私は、娘にとりたてて優秀な子供に育って欲しいと思っていたわけではありませんが、しかし、どうにか横道にそれずに、まっとうな人になってほしいと思って、私立の学校に入学させたかっただけなのですが、たまたま地域にたったひとつだけあったその学校がかなり良い学校で、本当に幸運でした。

今でも、近所の公立の学校の生徒がバスの中で騒いだり、道端でたむろしている様子を見かけるにつけ、一歩、間違えば、娘もこの仲間入りをしていたかと思うと、あの時、公立の学校に危機感を感じて、私立に入学させたことは本当に幸いなことであったと思わずにはいられません。フランスでは、子供の運命の別れ道は、ほんの小さな子供のうちに決まってしまうような気がしているのです。同じ地域に住み、育ちながらもこんなに違ってしまうのは、やはり学校の教育に、どれだけ格差があるかということです。あの学校に行かせていなければ、娘の人生はまるっきり違ったものになっていたことでしょう。ひょんなきっかけで入学させて頂いた学校でしたが、娘が結局、小学校から高校までの12年間お世話になった学校には感謝しかありません。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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