パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
2021年バゲットコンクールグランプリ受賞のバゲットと日本の食パンブーム
そもそも海外で長いこと生活しているのに、どちらかというと和食党の私は、常日頃は、日本に帰国した際には荷物の99%は、ある程度、保存の効く日本の食材をフランスに持ち帰り、あとは、現地で調達できる食材で、なんとか和食に近い食事を作ることが多いのですが、とはいえ、そうそう和食というのも材料の調達からして、なかなか不経済で手がかかることもあり、そうそう和食というわけにもいかないのが現実です。
何しろ、そんな生活を続けてきたためか、我が家の娘は、半分はフランス人でありながら、なんとフランス料理嫌いというけったいなフランス人になってしまいました。フランス=フレンチ、フランス料理というと、馨しいイメージを持たれているかもしれませんが、そもそも一般的なフランスの家庭は、日常では、パンとスープ、ハムなどの加工食品や肉をさっと焼いたり、それにちょっと温野菜程度のかなり質素な食事をしています。
そもそもフランスでは外食は高く、しかも一般的なビストロなどでは大したものは出しておらず、それなりの値段を払えば美味しいものは、いくらでもあるのですが、まあまあの値段で美味しいものを探すとなるとそう簡単なことではありません。
そんな中で、フランスで確実に美味しいのは、やはりパンとバター、チーズなどの乳製品が一番だと私は思っています。
中でもパン・バゲットは、フランス人の主食といっても良い存在で、値段も手頃で、しかもハズレる可能性が最も低く、適当な外食をするくらいなら、パン屋さんに行って、焼きたてのバゲットを買って、美味しいバターとチーズで食事・・というのが、確実に後悔しない手軽で美味しい食事になるため、和食党の私でさえも、パリに来て以来、食生活が大きく変化したことと言えば、パンを食べる割合が格段に増えたことは自分でも驚くくらいです。
2021年バゲットコンクール優勝のパン屋さん(Le Grand Prix de la baguette de tradition française 2021)
パリでは毎年、その年の最高のバゲットを選ぶコンクールが開催され、グランプリを獲得したパン屋さんには、その年最高のバゲットの称号が与えられ、その年、一年間はエリゼ宮御用達のバゲットとなり、その後は長きにわたり、〇〇年バゲットコンクールグランプリ獲得のお店という看板を掲げ続けることになり、数多くあるパン屋さんの中でもある意味、ステイタスを獲得し、パリの歴史に名を残すパン屋さんになったことになります。
À la fin, il n'en reste qu'un !
-- Élysée (@Elysee) September 25, 2021
Bravo à Makram Akrout qui a remporté hier le prix de la meilleure baguette de Paris pour l'année 2021.
Comme le veut la tradition, il fournira du pain pour l'Élysée pendant un an. https://t.co/gV1iCKtEUk
今年で28回目を迎えたこのコンクールは、外観、香り、焼け具合、小麦粉、味などの様々な観点から厳密に審査が行われ、長さ55㎝〜70㎝、重さ250g〜300g、小麦粉1㎏あたり18gの塩分と定められています。今年、出品されたのは、173本のバゲットで、その中から晴れてグランプリの栄誉を勝ち取ったのは、パリ12区にある「Les boulangers de Reuilly」というチュニジア出身の42歳のパン屋さんでした。
パリ12区にあるグランプリ受賞のパン屋さん Boulangers de Reuilly 筆者撮影
彼は「いつかこのコンクールで優勝することを目標にしてきた」と後のインタビューで語っていますが、それでも、受賞の知らせを受けた瞬間は、すぐには信じられなかったそうです。
そんな今年最高のバゲットと聞いて、それを食べてみないわけにはいかず、その数日後にさっそく私は、パリ12区のパン屋さんにバゲットを買いに行きました。住所さえわかれば、どこでもすぐに行けるところがパリの良いところでもありますが、それは我が家から、バスで容易に行くことができる場所にありました。
しかし、最初、お店を見つけて、「えっ??本当にここなの?」と何度もお店の看板を確かめてしまうほど、そのお店はあまりに普通のパン屋さんで、パリには他にも、もっとたくさんおしゃれできらびやかなパン屋さんはいくらでもある中、どこにでもあるような、目立たないパン屋さんでした。まだ、受賞して数日しか経っていないために、特に「2021年バゲットコンクールでグランプリ受賞!」などという看板も掲げられておらず、ちょうどお昼時でもあったためか、普通のお客さんが普通にサンドイッチやパン・オ・ショコラなどを買っていて、「ホントにここなの?」と何度も思ったほどです。私の目的のバゲットを買う際には、一応、「これ、バゲットコンクールでグランプリを取ったバゲットですよね・・」と確認すると、「ハイ!そうですよ!」と店員さんがちょっと顔を赤らめたりするところも、なんだか妙に微笑ましくもあり、「おめでとうございます!」というと、嬉しそうに慎ましやかに、「ありがとうございます!」と答えてくれるのも、とても好印象でした。
このお店の目立たない佇まいや、店員さんの謙虚で素朴な応対ぶりからも、逆にこのコンクールがお店の場所や格調などではなく、本当にパンそのものが、きっちりと審査されたものであることを感じずにはいられませんでした。
バゲットは1本1.2ユーロ(約150円程度)と、これまた、まあまあ普通のお値段でしたが、大きさや重さが規定されているとはいえ、なかなか大ぶりなバゲットは、受け取ると、食べる前から香ばしい香りが漂うなかなかな逸品で、家を出る前にバターを冷蔵庫から出してこなかったことを少し後悔したほどでした。
家に帰り、さっそく、あえてナイフを使わずにバゲットを折ってみると、断面は適度に空気が入り、外側のカリッとした部分とは対照的に、内側は、もっちりとした食感になかなかしっかりとした食べ応えのあるバゲットでした。これに美味しいエシレバターなどがあれば、もうそれで、最高のファストフードです。
外はカリッと中はもっちりとしたバゲットの断面 筆者撮影
パリ市は、、このバゲット・ドラディションと呼ばれる昔ながらの材料や製法(生地は冷凍保存などを一切しない)のバゲットをこのフランスの食文化の中心とも言える文化継承の意味を込めて、毎年、多くのパン屋さんに競わせる形で開催しています。ですから、パリには、これまでに歴代28件のグランプリ受賞のパン屋さんがあることになります。昨年は、パンデミックのためにコンクールの時期が少しズレたようですが、毎年、季節になると行われるパリの季節の風物詩でもあります。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR