パスタな国の人々
海辺の小さな町に生まれた世界初サステナ農業システム
「ネーモの栽培方法は、完全な水耕作。つまり植物は一切の土を必要とせず育つというわけ。世界中で食料の需要は増えているのに耕作可能地はどんどん減っているという現実に、何か別のシステムを生み出したい、そういう思いが膨らんで行ったんだ」。
土を使わず、海洋環境の中で植物を育てることの一番大きな利点は、害虫がいない、つまり農薬の必要がないということだそうだ。
そしてエネルギーのセルフ・サスティナブルシステムというのも面白い。システムを動かし、それぞれの球の中のコンディションをコントロールするのは全て電気制御だが、電力はソーラーパネルと風力発電で賄っている。そして球の底部に入れてある海水が、外部の海水温度に冷やされることで結露し、蒸発し、植物に必要な湿気となり、真水に変わる。水の自給自足というわけだ。
「普通」の温室であれば、寒い時期に内部を温めるためにはある程度の、何かしらエネルギーが必要とされるが、ここネモズ・ガーデンではjそれも必要がない。
「太陽光が球の中の空気を温めるから、球の中の気温は外部の水温よりも常に高めになるんだ。この辺りでは、冬は水温が13〜14度になるけど、球の中だったら常に16〜17度。外気温が0度の時もね!」とフェデリーコ。
日中と夜間の激しい気温差のない球の中の環境は、バジリコなど繊細な香りを信条とするハーブなどには特に適しているという。味や香りの判断は主観的なものだが、収穫したバジリコの香りについてフェデリーコは「とても香りが濃厚」と言い、ビーチ沿いの人気バーでバジリコを使ったカクテルを提供するバリスタは「ソフトないい香り」という。どちらにせよ、満足のいく結果が出ているということだ。
スタートはちょっとした遊び心からだったプロジェクトは、次第に大きな目標へと成長して行った。農業の代替システムをクリエイトする。特に環境や経済的視点から植物を栽培するのが難しい地域で活用できたら、という目標だ。例えば離島など耕作に向かない土地では、野菜を他から運んでくる必要がある。この問題が解決でき、地元で農作物が取れるとなれば、輸送にかかるコストやエネルギーを削減できるという点で、とても興味深いというわけだ。
著者プロフィール
- 宮本さやか
1996年よりイタリア・トリノ在住フードライター・料理家。イタリアと日本の食を取り巻く情報や文化を、「普通の人」の視点から発信。ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」でのコロナ現地ルポは大好評を博した。現在は同ブログにて「トリノよいとこ一度はおいで」など連載中。