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松尾彩香|スペイン

国民の声は無視?サンチェス首相続投の決め手はカタルーニャ独立派の恩赦

©️YouTube - DIRECTO | Pedro Sánchez comparece para presentar la configuración del nuevo Gobierno

11月16日、スペインの首相を決定するための信任投票が行われ、現在のペドロ・サンチェス首相の続投が決定しました。国民からの反対を押し切って結んだ恩赦法の適応が勝利の決め手となったようです。

長引いた選挙

7月に行われた下院総選挙では中道右派の国民党が第一党となるものの、過半数の議席を確保することができなかったため、党首のフェイホー氏は首相となることができませんでした。その後、国王フェリペ6世に指名され再び首相になるチャンスを獲得したフェイホー氏でしたが、9月に議会内で行われた信任投票で他の政党から十分な支持を得ることができず選出不可に。次の候補者としてサンチェス現首相が国王に指名され、16日に行われた信任投票で179票の賛成票を集めたサンチェス政権続投を決めました。

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敗北したフェイホー氏©️shutterstock -Fernando Astasio Avila

 

決め手となった恩赦法

サンチェス首相続投を決めた鍵となったのが「恩赦法」。2014年と2017年にカタルーニャ独立派政党はカタルーニャ独立を目的とした選挙を違法に行い、勝手に独立宣言を行いました。これに関わった政治家たちは逮捕され、この政党のリーダーであるプッチデモン氏は現在ベルギーに国外逃亡しています。サンチェス首相が今回の信任投票で勝利を収めるためには、彼らのようにスペインからの独立を望んでいる独立派政党たちの賛成票が必要不可欠。これらの政党は賛成に票を投じる交換条件として、2014年以降に逮捕されたカタルーニャ独立派の政治家たちを恩赦することをサンチェス首相に提案し、サンチェス首相は議会を通さず最短ルートで恩赦法を成立させることを約束したのです。恩赦法によってカタルーニャ独立派の政治家たちは釈放されるわけですが、恩赦法では違法に選挙を行ったという事実が「なかったこと」になるため、これらの投獄された当時の政治家たちはまた再び政治家として復帰し独立活動を再開することができるということになります。他にもカタルーニャ州が抱えている借金の一部を免除するなど、カタルーニャ州の独立を後押しするだけでなく経済的にも大きな利益をもたらすような条件を突きつけられたサンチェス首相でしたが、政権続投のためにこれらの無茶苦茶とも言えるような条件すら全て受け入れることにしたのでした。カタルーニャの独立を望んでいないスペイン人たちにはマイナス要素しかないこの条件。もちろん国民らは黙っていません。

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カタルーニャ独立派 プッチデモン元党首©︎shutterstock - Alexandros Michailidis

繰り返されるデモ

これまで恩赦法はあり得ないと公言し続けていたサンチェス首相。まさか権力を維持するためだけにカタルーニャ州独立派の条件にサインをするはずはないだろうという思われていた矢先、信任投票の日が近づくにつれて恩赦法適用がどんどん現実味を帯びて来ました。「スペインが分断される」「これは独裁政権だ」と普段は大人しいスペイン国民もさすがにこれに対しては黙っていることはできず、右派政党が呼びかけた抗議デモに連日多くの人が参加するようになったのです。

11月の初旬から本格的に広まったデモはほぼ毎日のように続いており、マドリードやバルセロナなどの大都市だけに限らず小さな自治体でも多くの国民がこの恩赦法に反対してデモに参加しています。注目すべきなのはこのデモには右派政党支持者に限らずサンチェス首相が所属している社会労働党の支持者もかなり多く参加しているということ。サンチェス首相は、抗議を行うために社会労働党の事務所に集まったデモ隊に対して「社会労働党事務所を攻撃することは民主主義を攻撃することと一緒だ」と非難するコメントをしていますが、イデオロギーに関係なく多くの国民が反対の声をあげているにも関わらず、それを無視し権力維持のためだけにカタルーニャ独立派からの要望を全て飲み込むサンチェス首相がやっていることが果たして民主主義的かと言われたら、それこそ疑問を感じてしまいます。

スクリーンショット 2023-11-20 午後10.00.20.png

©️YouTube - AMNISTÍA : PROTESTA en "DEFENSA DE LA CONSTITUCIÓN, por la UNIDAD y la IGUALDAD" |RTVE

 

演説でのサンチェス首相 

11月12日の抗議デモでは100万人が参加したと言われているほど国民から大ブーイングを受けている恩赦法。もしも日本の政治家ならば法案を撤回したり国民に説明したりするであろうこの様な状況でもサンチェス首相は全く国民の疑問の声に応えようとする姿勢を見せることはありませんでした。

こうして迎えた信任投票の日。信任投票の前に各政党には演説をする時間が与えられます。極右政党VOX党アバスカル党首は「民主主義の終わりの始まり」、中道右派国民党フェイホー党首は「サンチェス首相が行っていることは歴史に恩赦されることはないだろう」と自分勝手とも言えるサンチェス首相の行いを強く批判しました。一方サンチェス首相は恩赦に反対する意見を尊重するとしながらも恩赦法は「一般的な利益のため」とし「不和の中に繁栄はありえない。和解と調和の未来を約束するものだ」として恩赦法を正当化しています。

またこの演説では、今後4年続くサンチェス政権の公約も発表。若者や無職者を対象とした公共交通機関の無料化、労働時間を週37,5時間に短縮、食品の付加価値税の引き下げの延長など、貧困層や労働階級にとっては嬉しい公約が並ぶ中、富裕層に対しては「申し訳ないが、富裕層には今まで以上に税金を納めてもらう」とはっきりと宣言。サンチェス首相が保守派の富裕層に嫌われる理由はこういうところなのかもしれません。

 

多くの国民の反対の声を押し切りなんとか勝利を掴んだサンチェス首相。かなり破茶滅茶なことをやってのけたサンチェス政権がまず先に取り組むべきは国民の信頼の回復でしょう。いや、でももしかしたらこのまま国民の声を無視し続けるのかもしれません。民主主義ってなんだっけと考えさせられるような4年間が始まろうとしています・・・。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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