スペインあれこれつまみ食い
過去最高レベルのインフレ率に脅かされるスペインの食卓
スペイン国立統計局(INE)の発表によると、スペインの8月の消費者物価指数 (CPI)上昇率は前年同月比10,4%でした。
ガソリン価格が低下したことによって前月の10.8%からは若干低下したものの、過去38年で最高レベルの高水準を推移しており、依然としてヨーロッパの中でも上位のインフレ率を維持しています。
市民の台所事情に大きな影響
もちろんこのインフレはスペイン人の生活にも大きな影響を与えており、食料品においては1994年の統計開始以来過去最高のインフレ率を記録しています。例えば8月の小麦の価格は前年同月と比較して40%の値上がりがあったほか、バターやパスタは30%、牛乳やパンは25%の値上がり。さらに卵や肉類、オリーブオイルなどスペイン人の生活の中心となる食材が軒並み値上がりされ、一般家庭の食卓を脅かしています。この記録的なインフレ率の高さの背景には、他国と同じようにロシアのウクライナ侵攻が大きく関わっていることは否定できないでしょう。ガソリンやエネルギー、肥料価格の高騰で生産コストが上昇し、それを運ぶためのコストや温度を管理しながら保管するためのコストも全て上昇していることがこの食料品価格に影響を及ぼしているようです。
ヘルシーな食べ物に打撃
食品の全体的な値上がりが騒がれる一方で、健康的な食品ほど値上がり率が高いと指摘する声もあります。
地元メディアEL MUNDOによると、牛乳や卵、肉やフルーツなど栄養価が高い食品は前年と比較して12%から25%の価格の上昇が見られたのに対し、チョコレートや菓子類、炭酸飲料やアイスクリームなどは10%以下の価格上昇に留まっているようなのです。つまりもし親が子供に軽食を持たせるとしたら卵とチーズのサンドイッチとフルーツを持たせるよりも、スナック菓子と炭酸飲料を持たせた方が家計への影響は少ないと言うことになってしまうのです。
¥EL MUNDOは国連食糧農業機構(FAO)が「子供の食事には乳製品、肉、卵などの動物性タンパク質と穀物、野菜、果物などの植物由来の食品のバランスが取れていることが大切だ」と示していることや、スペイン人の53,6%が肥満か体重過多であることを指摘し、こういった価格の動きは国民がより多くの超加工食品を摂取することに繋がってしまうのではないかとこの現象を問題視しています。
価格凍結案が出るも・・・
下がる気配のないインフレ率の対策として労働・社会経済大臣のヨランダ・ディアス大臣は、食生活を送る上で基本となる食材価格の上限を設定する法案を提言し、大手スーパーに協力を呼びかけました。この案に対して国民から賛否両論がある中、フランスに本社をおく大手スーパーマーケット カルフールは『30ユーロで買える30品目』を発表。来年1月までこのリストに載っている30品目の値上げを行わないことを宣言しました。しかしこのリストに載っている品目の中には卵や野菜などは一切含まれておらず、缶詰やホワイトチョコレートやコーンフレークなど健康に良くないとされている品目がずらりと並んでおり、ディアス大臣の提言に沿っていないと皮肉の声が続出しています。
いつまで続くのか
ガソリン1リットルあたり20セント値引きしたり、国鉄Renfeの一部区間を無料化するなど、止まらないインフレに対して様々な経済対策を打ってきたスペイン政府。さらに今月にはサンチェス首相が現在21%のガス付加価値税(VAT)を10月から5%に引き下げることを発表しました。しかしインフレの勢いが強すぎてこれらの対策が全然追いついていないようにも感じます。そうは言ってもスペイン政府としては、たとえ焼け石に水だとしても国民の不満を少しでも和らげるためにはこういった対策をコツコツ行っていくしかないのでしょう・・・。
著者プロフィール
- 松尾彩香
2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。
Twitter: @maon_maon_maon