日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
朝食からパンが消える?コロンビア人の生活を脅かすパンの値上げ
原料価格の高騰などから生活に欠かせないパンの価格が値上がりし、コロンビアの国民の生活に影響を与えています。ロシアのウクライナ侵攻で小麦の価格が急騰し、それ以来パンの値上がりがたびたび報じられてきたコロンビアですが、家畜の飼料の値上がりによって卵や牛乳、バターなどのパンを作るために欠かせない原材料が次々と値上がりしており、多くのパン屋が値上げを余儀なくされているようです。
コロンビア人に欠かせないパン
コロンビアには25,000ものパン屋があると言われています。コロンビア国内の一人当たりのパンの消費量は年間22キロ、首都のボゴタでは一世帯当たり年間82キロものパンが消費されているとされるほどパンはコロンビア人にとって欠かせない食べ物。そのため一部の富裕層エリアを除いてコロンビアには「街のパン屋さん」で溢れています。ちょっと小腹がすいたとき、少し外に出たい気分のとき、そんな時に手軽な価格で購入できるパン屋さんはコロンビア人の生活を支えている大切な存在と言ってもいいでしょう。昼下がりのパン屋さんはパンとコーヒーを片手に友達と談笑する住民で溢れ返り、サッカーの試合がある日は近隣住民がパン屋にあるテレビを囲み試合観戦をしている光景はこの辺りではよく見かける日常風景なのです。
パンデボーノ消滅の危機?
コロンビア国内でも特にパンの消費が多い首都ボゴタ。忙しいボゴタ市民の朝食にはパンデボーノのような手軽に食べられる小さなパンは欠かせません。パンデボーノはバジェ・デル・カウカ県発祥のキャッサバを使用したモチモチの食感が特徴のパンで、日本で売られているポンデケージョとよく似ています。コロンビアでは以前はこのパンデボーノが1つ300ペソ(約9円)ほどで買えていたのですが、最近では300ペソのパンデボーノは街から姿を消し、パン屋は軒並み500ペソ(約15円)ほどまでに値上げをしていると言われています。
原因は先に述べたような小麦やバターの値上がりに加え、キャッサバの生産量の激減。キャッサバ澱粉はパンデボーノのモチモチ感を出すために欠かせない原料なのですが、近年コロンビアのキャッサバ農家たちは利益の出ないキャッサバを植えることを止め、どんどん他の作物に移行していっているというのです。キャッサバの生産量が減ったことでキャッサバ澱粉の価格はここ半年で2倍近く高騰しており、庶民の味方だったはずのパンデボーノの値上げは、どうも避けては通れないようです。
「もう続けられない」
アンティオキア県バジェ・デ・アブラ地区の住宅街の一角に私のお気に入りのパン屋さんがあります。私がここでいつも買うのはモッツァレラチーズのパン。このパンも去年の11月は一つ1200ペソで販売していましたが、今年2月には1500ペソ、現在では1600ペソまで値上げしています。オーナーのハイメさんによると原因はやはり原料価格の高騰。砂糖50キロの値段は82.000ペソから227.000ペソに、小麦は90.00ペソから192.000ペソまで値上げをしているそうで、商品の値上げは避けられないようです。ハイメさんはもう定年の歳、商売にならないパン屋はとっとと辞めてしまいたいと嘆いていました。ADEPAN(パン協同組合連合会)のマルセラ・モラレス会長はこの状況をかなり重く受け止めているようで、「ローカルのパン屋さんは地元住民の生活に欠かすことのできない大切な存在であり、彼らを見捨てないためにも8月から政権交代したあともこの問題にはしっかりと向き合っていかなければいけない」と指摘しています。パン屋さんとコロンビア国民の生活を脅かす原料価格の高騰。一体いつまで続くのでしょうか。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon