日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
ウクライナ侵攻 コロンビアコーヒーに与える影響とは
ウクライナ情勢の影響で世界中で様々な品目の値上げが懸念されています。
コロンビアでは去年から食料品の値上げが問題視されてきましたが、ウクライナ情勢で更に値上げに拍車がかかる形に。この1年で食料品は26,3%の値上げが行われたというデータもあります。
特に値上げが顕著な品目の一つは卵。去年は卵(30個)を390円ほどで購入していましたが現在は600円払わないと買うことができません。更に私たちは毎週末にまとめて買い物をすることが多いのですが、同じものを買っても去年より合計金額が40%ほど高くなっており、食料品値上げを身をもって実感しています。
国民の半分が貧困層と言われているコロンビア。これらの値上げは彼らに大きな打撃を与えており、国民の約30%が1日2食以下の生活を強いられているそうです。
これだけ食料品の価格高騰が深刻なコロンビアですが、実はロシアやウクライナからはほとんど食品を輸入していません。ではなぜ食品の値上げが止まらないのか。その理由は肥料にありました。
コロンビアで使用される肥料のほとんどを輸入に頼っており、尿素肥料はその代表的な一つです。窒素を40%以上含んでいる尿素肥料はコロンビアの農業において欠かすことのできない肥料の代表ですが、この肥料の輸入先の42%がロシアとウクライナなのです(ベネズエラを入れると63%)。食卓に並ぶ作物や畜産物の餌となる作物を育てるためのコストが上昇していることが、今回の食材の値段高騰に拍車をかけた大きな要因と言っても良いでしょう。
コーヒー生産量減少の懸念
この肥料の値上げはもちろんコーヒー栽培に大きな影響を与えています。
パンデミックがもたらした港の混乱によって、肥料の値段高騰はロシアのウクライナ侵攻が始まる以前からコーヒー農家の悩みの種でした。以前は1袋2500円ほどで購入できていた尿素肥料は、今購入しようとすると7000円以上するのです。
せっかくコーヒーの市場価格が高騰して利益が増えていても、肥料がここまで値上がりしては元も子もありません。3倍近い価格の上昇に肥料を買うことを躊躇してしまうコーヒー農家も少なくはなく、この現象はコーヒーの木の栄養不足を意味し今後のコーヒー生産量減少に大きくつながる恐れがあります。
コロンビアのコーヒー生産量はラニーニャ現象による降水量の増加と日照時間の低下により減少傾向にあり、昨年の年間生産量は前年比11%ダウンという結果になりました。2022年に入っても生産量は回復せず1月は前年比20%、2月は16%、3月は13%と減少が続いています。現在私が住んでいる地域はコーヒーの収穫期に入りましたが、収穫量は例年に比べとても少なく今後も「前年比◯%ダウン」が続く可能性は否定できないでしょう。これに更に肥料の問題が加われば生産量減少は更に深刻な問題となり、コロンビアの経済にも影響を与えかねないのです。
一方コロンビアと日本のコーヒーで結ばれた関係は非常に良好の様です。先日4月7日、コロンビアコーヒー生産者連合会東京事務局の創立60周年を祝う式典が行われました。これにはコロンビアコーヒー生産者連合会(FNC)のロベルト・ベレス代表も来日して参列し、以下の様なコメントを残しています。
「皆さんがご存知の様に私は若い頃営業部長としてこの組織に関わり始め、30年以上前に日本でチームの一部として携わった経験があります。それゆえ、日本には深い愛情を感じており、今日もコーヒー生産者連合会と焙煎業界の努力の甲斐あって世界第3位のコーヒー消費国となった日本と共にコーヒーと文化の発展を代表して働き続けています。」
駐日コロンビア共和国大使だったこともあるベレス代表は日本に特別な思い入れがあるに違いありません。
日本でのコロンビアコーヒーのプレゼンスを高めるために @santiagopardos 大使と @fedecafeteros の @robertovelez 総裁は、コーヒー業界の主な代表者と #FNC コロンビアコーヒー生産者連合会東京事務局創立60周年記念を祝いました。 pic.twitter.com/DN7k727b4b
-- Embajada de Colombia en Japón - 駐日コロンビア大使館 (@EmbColombiaJap) April 7, 2022
この日は遠く離れた2ヵ国がコーヒーによって強く結ばれていることを再確認した日となりましたが、この関係を絶やさないためにはコーヒーの安定供給は必要不可欠。肥料の値段高騰はそれを脅かしかねません。しかし、コロンビアは技術的な理由から尿素肥料を自国生産することができない上、コロンビアのドゥケ大統領は9日ロシアとの関係を一切断つことを発表したことから、今後これらの肥料の不足をどこでどう補っていくのかを早急に決定する必要がありそうです。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon