日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
ボテロ ふっくらした絵を描くコロンビアを代表する芸術家
コロンビアを代表する芸術家、フェルナンド・ボテロ。彼が生み出す作品は全てボリュームたっぷりでふくよかに表現されており、そのスタイルは「ボテリズム」として世界的に認知されています。
4月19日に90歳の誕生日を迎えてもなお現役の芸術家として次々作品を生み出し続けているボテロ。そんなボテロの作品たちが4月29日からBunkamura ザ・ミュージアムにて展示されるそうです。前回ボテロの大規模な展覧会が日本で行われたのは1995年-1996年。実に26年ぶりの展覧会となる「ボテロ展 ふくよかな魔法」に展示される作品のほとんどは日本初公開なのだそうです。また、この展覧会に合わせてボテロの素顔に迫るドキュメンタリー映画「フェルナンド・ボテロ 豊満な人生」も同日29日にBunkamuraル・シネマにて公開されます。この機会にぜひコロンビアの巨匠フェルナンド・ボテロの作品や人生に触れてみてください。
山あり谷ありの人生
ボテロは1932年4月19日に決して豊かではない家庭の3人兄弟の次男としてコロンビア第2の都市メデジンに生まれました。弟が生まれて間も無く父親を亡くしたボテロは叔父の勧めで闘牛士養成学校に入学しますが、そこでボテロは闘牛士ではなく絵を描くことに情熱を燃やすようになります。若干16歳で地元紙EL COLOMBIANOの挿絵を任されたり展示会を開いたりと、彼の芸術の才能はとても若くして開花したのでした。芸術家として学費を稼ぎながら高校を卒業したボテロは首都ボゴタに移住した後カリブ海沿いのトルーに滞在。そこで製作した作品が国内のコンクール2位に入賞し、そこで得た賞金を手に念願のヨーロッパでの生活をスタートさせます。若干20歳でスペイン、イタリア、フランスに渡りヨーロッパの絵画を学んだボテロは一度コロンビアに帰国しメキシコに渡るのですが、この旅がボテロのスタイルである「ボテリズム」を生み出す大きなきっかけとなりました。
1956年のある日。弦楽器のマンドリンのスケッチを描いていたボテロは、本来大きいはずのマンドリンの穴を小さく描いてみることにしました。小さな穴を描き終えたボテロはそのサイズのコントラストでマンドリンが膨張しているかのように見えることに気が付きます。そこに美学を見出したボテロは徐々にこのふっくらしたスタイルを確立していき、現在ではそのスタイルは「ボテリズム」として世界に認知されるまでになりました。
その後ニューヨークに渡ったボテロですが、その頃アメリカではジャクソン・ポロックのような抽象画が流行していたためボテロの絵はなかなか受け入れられず、貧しく苦悩の日々を過ごします。しかしボテロは諦めることはありませんでした。厳しい生活を送りながらも制作を続けるボテロですが、ある日「12歳のモナリザ」という作品が有名キュレーターの目に止まったことでボテロの知名度は徐々に上がっていきます。
「12歳のモナリザ」が評価されて以来芸術家として成功を道を突き進んでいったボテロですが、そんな彼をある日悲劇が襲いました。休暇を利用してスペインでドライブをしていたとき、コントロールを失ったトラックがボテロの運転する車に突っ込んで来たのです。その事故で一緒に車に乗っていた当時4歳だった息子さんのパブリートは即死。ボテロ自身も右手小指の第一関節を失うほどの怪我を負い、しばらくボテロは悲しみに暮れて絵が描けなくなったといいます。苦しみの果てにボテロが初めに描いた絵は亡くなったパブリートの絵。パブリートをモデルにした作品は20点ほどありますが、この時に描いたパブリートの油絵がその中で最も特別な作品とされています。数々の人生の試練を乗り越えて制作を続けるボテロは現在、世界で存命の芸術家の中で最も偉大な芸術家の一人として世界的に評価されています。
アンティオキア美術館
ボテロが生まれたメデジンの中心街にはコロンビアを代表する美術館の一つであるアンティオキア美術館があります。この美術館は様々なジャンル約5000点の作品を所持していますが、ボテロもこの美術館に多くの作品を寄付しています。
美術館は3階建になっていますが、3階はワンフロア全てボテロの作品が展示されています。ボテロのフロアでは撮影は禁止されているので写真で紹介することは紹介できませんが、ボテロの油絵やパステル画、彫刻を楽しむことができます。
更にアンティオキア美術館の正面に広がる広場は「ボテロ広場」と名付けられており、23点のボテロの彫刻作品が並んでいます。
ボテロ広場に限らずメデジンの中心街にはボテロの彫刻を至るところで見ることができ、それは観光客の目を楽しませるためだけでなく地元の人々にとってもボテロを身近にそしてに誇りに感じられる大切な要素にひとつとなっています。
「存命芸術家の中で最も偉大」と言われているボテロですが、これから先何十年たってもフェルナンド・ボテロはコロンビア人にとって「コロンビアを代表する美の巨匠」であり続けることは間違いないでしょう。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon