日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
元コロンビア最恐の街コムナ13 子供たちを暴力から守るために警察官が贈るクリスマスプレゼント
12月にはいり、すっかり街がクリスマスモードになったコロンビア。どこもかしこもイルミネーションがとても綺麗に輝いています。
そんな中、コロンビア・メデジンの有名な観光地であるコムナ13(Comuna13)にて現地の生活安全警察たちが子供向けのクリスマスイベントを開催しました。内容は「子供たちの暴力を連想させるおもちゃを平和なおもちゃと交換し、子供たちを暴力から遠ざける」というもの。
今日はそんなコロンビア警察の平和に対する取り組みを紹介したいと思います。
最恐のスラム街からの変貌
週末は人がすれ違うのがやっとなほど観光客でごった返すコムナ13ですが、ほんの数十年前までこのエリアは世界で最も危険な場所の一つとも言われていました。
元々コムナ13には内戦から逃れた貧しい国内避難民が多く住んでいたのですが、それと同時にこの地域は国内の様々な都市へのアクセスが良いことから麻薬組織の巣穴となっていたという過去があります。80年代、麻薬王パブロ・エスコバルはこの地域の貧しい若者を殺し屋として雇い、パブロを探して訪れる警察や軍隊、右派民兵組織などを次々と殺していきました。パブロの死後は他の麻薬組織や麻薬売買を資金源としている武装組織などがこの地域の縄張り争いに参戦。コムナ13は麻薬王の死後も毎日殺人が絶えない危険な地域となってしまったのです。
しかし2002年コロンビア政府軍の半ば強引な軍事作戦によってこれらの組織が激減し、この地域を観光地化させることによって治安を大幅に改善させることに成功しました。
その変貌の詳細についてはいつか別の機会で紹介したいと思います。
歴史を繰り返さないために
以前より治安が改善されたとは言ってもこの地域にはまだ麻薬の影が潜んでいるのは事実。観光地のメインストリートは賑わっていますが、華やかな道から一本逸れるとそこにはまだ貧困がはっきりと残っているのが見て取れます。貧困に悩む人々はお金を稼ぐ手段として武器を持ち犯罪に手を染めてしまいがち。犯罪や暴力のそばで育っていく子供たちが過去の過ちを繰り返さないために、地元の警察らが中心となって毎年この時期にイベントを開催しています。
イベントの名前は「Desarma tu corazón y recibe un regalo(心の武器を解除してプレゼントをもらおう)」
この地域の子供たちはピストルなどの暴力を連想させるおもちゃを警察官に渡し、警察官は代わりに人形などの平和的なおもちゃをプレゼントします。暴力を子供から遠ざけ、歴史を繰り返さないことが目的とされています。
私たちが会場についた頃、外には既にたくさんの子供たちがおもちゃを持って集まっていました。
警察官は実際にプレゼント交換を始める前に暴力を連想させるおもちゃでは遊ばないようにしようと子供たちに呼びかけます。
その後はイベントのメイン、おもちゃ交換。子供たちは自分の持ってきたおもちゃを手に列を作ります。
とてもリアルなピストルなおもちゃを持っている子や、中には本物の刃物を持ってきている子も数人いました。警察官はまず名前を尋ね、このおもちゃ交換の意味を一人ひとりに説明してから新しいおもちゃをプレゼントしていきます。おもちゃをもらった子供たちは嬉しそうに親の元に駆け寄り新しいおもちゃで早速遊んでいました。
平和を願って・・・
今回この地域に初めて足を運びましたが、警察官らが会場にテントを張っていると子供たちが何か手伝うことはありませんか?と声をかけてきたり、交換した平和的なおもちゃで警察と子供たちが遊んだりと、警察官と地元のコミュニティとの距離が非常に近いことに驚きました。これは日頃から警察官たちがここの住民たちとコミュニケーションをとり、交流を深めている証でしょう。
今回の取り組みの他にもコムナ13の警察官たちはこの地域のホームレスに工芸品を作る技術を教えて収入を得る手助けをしたり、様々な方法で地元のコミュニティのサポートを行なって平和を構築しようとしています。かつてコロンビア最恐と呼ばれていたこの街に、1日でも早く本当の平和が訪れる日が来ることを願って今日も地元警察官は活動しているのです。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon