日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
バリスタ大会でコロンビア人が世界チャンピオンに!コーヒー国内消費に拍車
10月26日、コロンビアのコーヒー界がお祭り騒ぎとなる様な出来事が起こりました。
世界一のバリスタを決める大会『ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ』で、見事コロンビア代表が優勝に輝いたのです。
コロンビア人がこの大会で1位になるのは史上初ということでコロンビア国内でもビックニュースとなり、コロンビアのコーヒー業界の人々はSNSを通じて次々と喜びと祝福のメッセージを投稿しました。
"¡Diego Campos campeón mundial de barismo! Que orgullo para Colombia. Que a nadie le quede duda que Colombia produce el mejor café del mundo. Aprovechemos para consumirlo. Tomar #CaféDeColombia excelso es un privilegio". @robertovelezv, Gerente General de @FedeCafeteros pic.twitter.com/O6o1xfKI57
-- Federación Nacional de Cafeteros (@FedeCafeteros) October 26, 2021
ワールド・バリスタ・チャンピオンシップとは?
コーヒーオタクなら知らぬ人はいないであろう『ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)』。名前から想像できる様に世界一のバリスタを決めるコーヒー界のオリンピックとも言える大会です。この世界大会に参加できるのは事前に行われる国内大会で優勝を勝ち取ったバリスタだけ。コーヒーマニアたちは「今年はどこの国が優勝するのか?」と毎年この大会を楽しみにしています。去年はコロナウイルスの影響で中止を余儀なくされたWBCですが、今年はイタリアのミランで開催されました。
WBCに参加するバリスタたちは15分以内にエスプレッソ、ミルクビバレッジ、シグネチャービバレッジ(創作コーヒー)の3種類をオリジナルのプレゼンテーションを交えながら4人の審査員に提供しなければなりません。審査員はコーヒーの味だけでなく創造力や作業の行程、プレゼンテーションの内容などを総合的に評価していきます。
コロンビア代表 ディエゴ・カンポス
今年のWBCのチャンピオンに輝いたのは、コロンビア代表ディエゴ・カンポスさん。
コロンビア代表の優勝は史上初。コーヒー生産国では2011年エルサルバドル、2012年グアテマラに続いて3回目の快挙となりました。
ディエゴさんはコーヒーの名産地であるトリマ県出身の31歳。若手ではありますがコーヒー歴13年のベテランです。国内大会では5回の出場経験と2014年、2016年、2019年と3回の優勝経験がありますが、世界大会で大きな結果を残せたのは今回が初めて。優勝がわかった瞬間、ディエゴさんは膝から崩れ落ち念願の世界チャンピオンを勝ち取った喜びを噛み締めました。
ディエゴさんのパートナーであるデルリン・ロアさんはコーヒー農家の娘さん。ディエゴさんが国内のバリスタ部門で優勝した同年、デルリンさんはエアロプレス部門で優勝を果たしました。そんなコーヒー夫婦である2人は2年前にコーヒー名産地のウィラ県にディアマンテ農園と名づけられた農園を購入。焙煎師からキャリアをスタートさせたディエゴさんは、コーヒーの栽培から一杯のカップまでの全ての工程においてのプロフェッショナルとなったのです。
生産国が優勝するということ
コロンビアで一般的に飲まれているコーヒーは、輸出することができないくらいの最低ランクのコーヒー。更に近隣国から同じ様な低品質コーヒーを輸出し、国内消費用として販売しています。世界一美味しいコーヒーを作っているコロンビアで飲むコーヒーはさぞかし美味しいのだろうと期待して飲んだコーヒーが、私が生きてきた人生の中で一番不味いコーヒーだった衝撃は今でも忘れることができません。
そんな不味いコーヒーに魅了されるコロンビア人などほとんどいなく、コーヒーの淹れ方すらも分からないコロンビア人が大半なのが現実。ぐつぐつ沸かしたお湯にコーヒーの粉を放り込み、しばらく煮込んだ後にこし器でこすという淹れ方が主流で、一度使ったコーヒーをもう一度鍋に放り込み再利用する人もいる程。コーヒー文化先進国である日本人の私はこの光景を見て「これがコーヒー大国コロンビアの現状か」と驚いてしまいました。
さて、今回WBCチャンピオンとなったディエゴさんが所属するのはAmor Perfectoという会社。都市のスーパーのコーヒーコーナーには必ずこのAmor Perfectoのコーヒーが並んでいるほど、国内で愛されているブランドです。創業者であるルイス・フェルナンド・ベレス氏は不味いコーヒーばかりを飲んでいるコロンビア人を見て、「生産国の人にも美味しいコーヒーを知って欲しい」という願いを込めてこの会社をスタートさせたそうです。
近年コロンビアではちょっとしたコーヒーブームが起こっており、富裕層を中心に「数あるコーヒーからより質の良いコーヒーを選び、器具を使ってコーヒーを淹れる」と、コーヒーを楽しむ人が増えてきました。更に興味を持った人の中にはコーヒー農園ツアーに参加しコーヒー栽培の様子を見学したり、お金を払ってコーヒー講座を受講したりする人も出てきているのです。
今まで生産国でしかなかったコロンビアが、徐々にこうして消費国としても成長しており、今回ディエゴさんの優勝をきっかけにコロンビアでのコーヒーブームは更に加速することが予想されます。
コロンビアがコーヒーの生産大国であり、消費大国になる日はそう遠くないのかもしれません。
Amor Perfectoのルイス・フェルナンド・ベレス氏 ©️YouTube -AMOR PERFECTO CAFÉ
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon