日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
COP26 コロンビアが掲げた気候変動対策と現状とは
近年日本ではSDGs、異常気象、カーボンニュートラルなどの環境問題に関連するワードを耳にする機会が増えたかと思いますが、ここコロンビアでも社会の環境問題への関心が最近グッと高まっている様に感じます。
現在スコットランドのグラスゴーにて気候変動対策の国連会議「COP26」が開催されており、コロンビアのイヴァン・ドゥケ大統領も首脳級会合の場で演説を行いました。温室効果ガスの削減の他にも、コロンビアならではの問題と対策についての話もされていたのでここで紹介したいと思います。
温室効果ガス削減に加えコロンビアならではの目標も
「コロンビアの温室効果ガス排出量は世界全体のわずか0,6%ではあるが、コロンビアは気候変動の脅威に立たされている20の国の一つである。そのためコロンビアは最も大きな目標を立てることにした。」
ドゥケ大統領は目標を宣言する前にこの様な前置きをしました。海岸沿いをはじめ既に多くの地域で気候変動の影響が確認されているコロンビア。温室効果ガス排出量は少ないにしても、国内の違法な森林伐採のスピードは年々上がっており「地球の肺」とも呼ばれているアマゾンの森林は次々と伐採されています。
ドゥケ大統領はこの演説の中で2050年にカーボンニュートラルを実現させるために2030年までに温室効果ガスの排出量を51%まで削減すること。更に2022年までに国土の30%を自然保護区にすること、2030年までに違法の森林伐採をゼロにすること、2022年までに18万本の植林を行うことを目標として掲げました。
この目標を達成させるために米州開発銀行はコロンビアに対し6億ドルの支援を表明し、更にフランス、ドイツ、イギリス、韓国、スイスの5カ国も6億ドルの支援を表明しています。
気候変動の影響は既に・・・
他の国と同様にコロンビアでも既に気候変動の影響が現れはじめています。
去年コロンビアを直撃したカテゴリー5のハリケーン「イオタ」はカリブ海沿いの街を破壊し、住民に大きな被害を与えました。
コロンビアにカテゴリー5のハリケーンが直撃するのはこれが初めてのことで、専門家は温暖化が関係していると指摘しています。
またトリマ県にある標高4950mのサンタイザベル火山においては、1930年には2000ヘクタールにわたって広がっていた氷河が2020年には45ヘクタールまで減少しているとの調査結果が出ており、この氷河は5、6年後には消滅すると考えられています。これは地球温暖化が大きく関係しているでしょう。
ゲリラ軍に守られていたジャングル?
COP26でのドゥケ大統領の演説でもあったように、コロンビアが排出している温室効果ガスの量はわずかです。しかし、コロンビアでは森林伐採による環境破壊が深刻化しているのです。
ある報道によると、2020年にコロンビアで伐採された森林面積は171.685ヘクタール。2019年より8%増加しているのだそうです。2010年から2015年に行われた森林伐採の面積は年間約60,000〜80,000ヘクタールだったことから伐採される面積が最近になって急増しており、これには2016年に結ばれたゲリラ軍FARCとの平和協定が関わっていると言われています。
平和協定以前、FARCは政府軍から身を隠すためにジャングルに潜んで生活をしていたため、FARCが潜むジャングルは危険な地とされ誰も近づくことができませんでした。しかし2016年にコロンビア政府とFARCが平和協定を結んだことから多くのFARCの兵士たちが武器を置きジャングルを離れていったのです。
FARCが去り無法地帯となったジャングルに目をつけ、出入りするようになったのが違法の森林伐採を行う組織です。彼らは政府から目の届かないような森の奥に足を伸ばし、樹齢の長い丈夫で太い木を切り倒しお金儲けを始めるようになりました。
しかし、森林伐採の目的は木材として売るだけに留まりません。家畜を飼うための放牧場にするために森を切り開いたり、金や石油の採掘を行うために周りの木々を切り倒す例なども多く報告されており、今回のCOP26の演説を聞いた専門家からは森林伐採を減らすためにはこういった関係者とも話をするべきだと指摘する声も上がっています。
また、コロンビアは環境活動家にとって世界一危険な国とされており、こういった森林伐採に反対するアクションを起こす活動家が国を追われたり暗殺されたりするケースがとても多く報告されているのが現状で、こういったことからCOP26で掲げられた目標を達成することは決して容易ではないことは明らかでしょう。
今回COP26の演説で野心的とも言える目標を発表したドゥケ大統領ですが、彼の大統領としての任期は残り1年足らず。
残された任期の中でどれだけ目標達成に近づけるのか、また次の政権にどう受け継いでいくのか、これからも目が離せません。
参考:
https://www.eltiempo.com/politica/gobierno/cop26-los-compromisos-del-gobierno-colombiano-629164
https://www.elcolombiano.com/colombia/estrategia-climatica-de-largo-plazo-de-colombia-en-cop26-LL15966973
https://www.aa.com.tr/es/econom%C3%ADa/deforestaci%C3%B3n-en-colombia-aument%C3%B3-un-8-por-ciento-en-2020/2297600
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon