日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
持続可能なコーヒー栽培を目指して!コロンビア政府が発表した新たな政策とは
コロンビア政府とコロンビアコーヒー生産者連合会(FNC)はコロンビアのコーヒー栽培の持続可能性に関する方針を示した、経済と社会政策のための全国評議会(CONPES)の計画書を承認したことを発表しました。
この計画書は2030年までの9年間に34,531,000,000ペソ(約10億4300万円)を国の予算からコーヒー産業に割り当てるというもので、不安定な状況に置かれたコーヒー農家や環境問題などに焦点を当て持続可能なコーヒー産業を目指すことが目的としています。この計画は4つの側面から11の行動方針が定められていますが、ここでは4つの側面について紹介したいと思います。
⒈生産コストの削減と生産性の向上
-生産コストを下げ、加工工程の改良を行う。計画的に農園のリノベーションを行い、水の効率的な利用や植林を推進する。
コロンビアではコーヒーの木は6〜7年毎に切り倒すことが推奨されており、これをリノベーションと呼んでいます。コーヒーの木は樹齢が長くなるとなると実のつきが悪くなるので、安定した生産量を保つために定期的なリノベーションが推奨されています。
またコーヒーチェリーの発酵に使われた水は土壌汚染の原因になると言われており、FNCでは自然に放流する前にタンクなどを用いてそれらの水を浄化させるシステムを農家に導入する様指導してきました。
⒉価格の外的要因の減少と収入の安定
-不確実性の低減とリスク管理、貯蓄を可能とするためのツールへのアクセスの促進
コーヒーの市場価格は世界の様々な要因で上下します。今年は高値でも次の年に暴落することも珍しくないので、計画的な貯蓄や投資が求められます。
⒊新しい市場の開拓と既にある市場の強化
-より付加価値の高いコーヒーの輸出の促進。カッププロフィールを認識し、消費を増加させるための購入システムを促進。
去年あたりからコロンビア国内でのスペシャルティコーヒー(高品質コーヒー)の需要が増加の傾向にあります。FNCもコロンビア人向けにコーヒーの挿れ方などの講座を開くなどして国内消費に力を入れています。
⒋流通をスムーズに行うためのコーヒー産業全体のインフラ整備の促進
-運送・輸出コストの削減。生産地の通信環境の整備。
コーヒーをスムーズに輸送できる環境を整え、オンラインで様々な手配等が行える様に農村部の通信環境を改善することが必要とされています。
Estabilizar el ingreso del caficultor para reducir el impacto de factores externos que influyen en el precio y la producción de café, uno de los objetivos https://t.co/QvkHCHfAHQ
-- Agronegocios (@agronegocios_co) October 6, 2021
持続可能とは言えない現在のコーヒー産業
コロンビアのコーヒー農家に限ったことではありませんが、コーヒー農家は市場価格の乱高下や気候による予想外の不作など、常に不安定な状況に置かれているのが現状です。
近年ではコーヒー農家の高齢化が深刻になっていますが、コーヒー農家に産まれた子供たちが貧乏で社会的地位も低い親の背中を見て「自分はこうなりたくない」と街に働きに出てしまったり、親が子供にも同じ思いをさせたくないと子供にコーヒー農家の後を継がせないということが主に背景にあると考えられています。
またコーヒーの生産地はインフラが整っていない事も多く、コーヒーを売りに行くには馬や乗合バスなどいくつかの交通機関を経由する必要があったり、通信環境が悪くインターネットどころか電話をするにも家を出て電波が繋がるポイントまで出かける必要があったりと、コーヒー農家の生活を見ているととても持続可能とは言えないことがわかります。
更にコーヒーを栽培する際に、これまで多くの農家が生産性を上げるために元々あった木を全て切り倒し、ハゲ山にしてからコーヒー栽培を行ってきました。コーヒーの木にはある程度の日陰が必要なのですが、ほとんどの農園が少しでも収入を増やすためにと普通の木ではなくバナナを植えて日陰を作っています。しかしこの栽培方法では動物や昆虫が住処を失い、気候変動にも影響を与えてしまっているのが現状です。これではコーヒー栽培が持続可能とは言えません。既に今までコーヒーを栽培が可能だった地域が、地球温暖化によって気温が上昇しコーヒーが育たなくなってしまったという例が出てき始めているのです。
コロンビアには65万世帯ものコーヒー農家が存在しており、彼らがコロンビアの経済の鍵を握っています。コロンビアがコーヒー生産大国であり続け、次世代にコーヒー栽培を繋いでいくためにも、こういった政府のサポートは必要不可欠だと言えるでしょう。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon