日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
ついに死者ゼロもデルタ株の第4波に備えるコロンビア
日本でミュー株の感染者が発見されてから日本の様々なテレビ番組から取材の依頼が来ました。
「コロンビアでの死者や重篤患者はみんなミュー株なんですか?」
「ミュー株について、コロンビア人は恐怖を抱いていますか?」
「ミュー株はワクチンをすり抜けると聞いていますがどうなんですか?」
日本ではミュー株の感染力の強さやワクチンの効果についての報道が連日続き、それに不安を感じた視聴者が新たな情報を求め、更にミュー株の脅威について報道を流すというサイクルが出来上がってしまっているようです。
一方ミュー株が発見され蔓延が確認されたコロンビアでは、ミュー株どころかコロナウイルスの話題すら今となってはほとんど耳にすることはなくなり、サッカー観戦に旅行にとパンデミック以前と同じような日常が流れています。
インタビューで「ミュー株は本当に危険な変異株です!みんな怖くて外に出られません!」という回答を予想していたであろう日本のメディアの方々は、私が「みんなミュー株なんて知りませんよ。外出規制等もありませんし報道すらほとんどありません。」と答えるとみんな目を丸くしていらしゃいました。
死者がいなかった日
コロナウイルス第3波のピークだった6月21日には死者693人、新規感染者33,594人を記録していたコロンビア。
この感染がピークの頃に政府は移動規制をはじめとする全ての規制を解除し経済活動を優先させる決断をくだしましたが、7月にはいった頃から今までの外出規制は一体何だったんだと思うほど感染者は一気に激減。現在は一日の新規感染者数は1500人程度にとどまっています。
そんな中9月17日の地元紙El Colombianoで、国内のコロナウイルスによる死者数が24時間いなかったという報道がされ「ついにパンデミックが終わった!」と喜ぶ人の声も聞かれました。しかし、コロンビア政府はここで気を緩めることなく既に次にくるであろう第4波に備えて動き始めています。
第4波は10月末?
日本で猛威を奮っているデルタ株の感染が最近コロンビアでは増加傾向にあり、健康省は「10月末にデルタ株による第4波が起こるだろう」と既に宣言しています。規模としては第3波は下回ると言われていますが、これから年末にかけての感染拡大は避けることはできないでしょう。
この第4波で感染が懸念されるのは、接種が済んでいない若年層と接種から時間が経ってしまっている高齢者だろうと予想されており、政府はワクチン確保と接種の更なる加速を目指しています。
世界中で導入が検討されている3回目のブースター接種ですが、コロンビアでは2回目の摂取から6ヶ月以上経過している70歳以上を対象に10月1日からブースター接種を始めることが決定しています。
ワクチンで79,4%死亡が防げる
コロンビアの健康省の研究で、ワクチンを接種した場合コロナウイルスで死亡するリスクを79,4%防ぐことができるという結果が発表されました。
研究はワクチン未接種のグループと、ワクチン接種(シノバック・ファイザー・アストラゼネカ・ジャンセン)から15日が経過したグループの2つに分けて行われ、結果としてはワクチン未接種の患者では1000人あたりの死亡者数が15人だったのに対し、ワクチンを接種していた患者では1000人あたりの死亡者数が3人にとどまったという結果が出たのです。
更にこの結果ではワクチンの有効性が年齢によってどれほど変化するかも表しており、データによると年齢が高齢になるほどワクチンの有効性が低くなるとも捉えることができる結果が出ました。例えば60歳以上にワクチンの効果を絞った場合、コロナウイルス感染による入院を防ぐための有効性は69,9%、入院後の死亡を防ぐための有効性は79,4%となっています。しかしこの数字の低さはワクチンの有効性の問題ではなく、年齢によるものだと健康省は説明しています。
更に、この研究はミュー株のワクチンの有効性を調べる目的で行われたものではありませんが、健康省のフェルナンド・ルイス大臣は「ミュー株にも高い効果が見込まれるだろう」とコメントしています。
厳しい外出制限が貧困層や失業率の大幅な増加を招いてしまったコロンビア。次に感染が拡大する時は以前のような規制で国民の行動を制限することは難しく、そうなると頼みの綱はワクチン接種ということになります。しかしワクチンに対する不信感や宗教上の理由で接種を頑なに拒否する人も少なくなく、現在コロンビアでワクチン接種が終わっている人はわずか30%程度とラテンアメリカの中でも低い数値となってしまっています。集団免疫を獲得するには人口の75%がワクチン接種を完了している必要があると言われていますが、コロンビアがそこに達するにはあと200日も要するとさえ言われており、コロンビアとコロナウイルスの戦いはまだまだ続くことになりそうです。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon