日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
「封鎖解除せよ!」窮地に立たされたコロンビアコーヒー
コロンビアで起きているデモは、1ヶ月以上たった今でも依然として大きな規模で続いています。
この混乱の中、国内では約3000カ所もの道が封鎖されたと言われており、物流が停止してしまうなどの理由からコロンビアの経済に深刻な影響を与えています。この封鎖は、コロンビアの経済のモーターとも言われているコーヒー産業にも大きく関係することから、コーヒー関係者の間でも不安の声が上がっています。
輸出できないコーヒー
本来、5月には110万トンのコーヒーを輸出しなければいけませんでしたが、実際に輸出したコーヒーの量はたったの40万トン。そのほとんどがカリブ海に面した港から輸出されました。
コロンビアで生産されるコーヒーの65%は太平洋に面したブエナベントゥラの港から日本を含む海外へと輸出されますが、封鎖された道路の影響でコーヒー豆が港までたどり着くことができず、ブエナベントゥラからの輸出がほとんどできなかったのです。
輸出が遅れることで生じる問題
コーヒー豆はすぐに腐ってしまう農産物ではないので、輸出が遅れたとしても破棄を強いられることはありません。しかし、コロンビアのコーヒー豆が手に入らないからという理由で他国のコーヒー豆に置き換えられてしまい顧客を失ってしまったり、場合によっては遅延が理由の違約金が発生してしまうケースもあるのです。
6月8日、コロンビアコーヒー生産者連合会のロベルト・ベレス代表はツイッターにて『先週いくつかの海外の顧客から遅延と契約違反が理由でコロンビアコーヒーの使用の一時停止を正式に通告されました。我々は封鎖の1日目から警告してきたはずです。何年もかけて作り上げてきたものを彼らは破壊していると。』と、既に影響がで始めていることを報告しました。
またコーヒー生産者からコーヒー豆を買い取っている農協やエクスポーターは、コーヒーを輸出して得た利益から生産者に支払いをしています。つまり、このまま輸出ができないと資金が底を尽きてしまい生産者からコーヒー豆を買い取ることができず、生産者の生活に直接影響を及ぼすことになってしまいます。
今コーヒーの市場価格は、ブラジルの干ばつによる不作の影響で1カルガ(125kg)1,425,000ペソと7年ぶりの高値を記録しているのですが、今回の封鎖によってコーヒー農家たちはこの絶好のチャンスを逃してしまう恐れがあるのです。
肥料が届かない
道路封鎖によるコーヒー産業への影響は国外輸出だけにとどまりません。コーヒーの木に与える肥料の国内流通も滞ってしまっているのです。
雨季であるこの時期は、10月に控えたの大きな収穫期のために肥料をあげなければいけない大切な時期なのですが、私の住んでいるアンティオキア県では道路封鎖の影響で本来届いていないといけないはずの肥料の約50%の量の肥料しか届いていないということで、肥料価格の高騰が起こっています。コーヒーに限らず、他の農作物の肥料や家畜の餌も同様な理由で価格が上がっており、元々貧困問題が深刻な農民たちにとって大きな負担になってしまうことは明らかです。6月中ばには乾季が始まってしまい、乾いた地面では肥料を吸収しづらくなってしまうため農民たちはたとえ値段が高くてもこれらの肥料を買う以外に選択肢がありません。
昨年パンデミックが与えたコロンビア経済の大打撃は、コーヒー産業のおかげでなんとか乗り越えましたが、今回の道路封鎖はそのコーヒー産業ですら太刀打ちできないほど深刻なものとなっています。
徐々に道路の封鎖は解除され始めてきてはいますが、コロンビアコーヒー生産者連合会を含む様々な関係者は1日も早い道路封鎖の完全撤去を訴え続けています。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon