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松尾彩香|コロンビア

コロンビアの大規模デモ 税制改革撤回もまだ継続中

©️YouTobe - Cuáles son las razones que alimentan el Paro Nacional?- El Espectador

前回、コロンビアで起きているデモとその理由についてのブログを書きました。

コロンビアでは政府が発表した税制改革(増税案)に抗議するために4月28日から全国でデモが行われており、ブログの中では5月2日にイヴァン・ドゥケ大統領が法案を取り下げたので、これでデモは落ち着くだろうといったようなコメントを残しましたが、どうやらその読みは甘かったようです。

ドゥケ大統領が法案を取り下げた翌日、財務省のアルベルト・カラスキージャ大臣が辞任。問題はこれで解決したように見えましたが、デモは収束することなく、はじめのデモから20日近くたった今でも引き続き全国各地でデモが行われています。

当初、デモの理由は税制改革だと思われていましたが積もり積もった国民の不満はそれだけに留まらず、政府に対する要求はまだまだ数多く存在し、デモが収束する目処が全く立っていません。

 

警察による暴力

今回のデモで既に50人近い死者が出ているほか、数多くの負傷者や行方不明者が報告されています。死者の中には警察や特殊部隊に殺害された参加者もおり、コロンビア内に留まらず国際連合や様々な人権団体から「過度な武力行使」として懸念の声が上がっています。

近年コロンビアでは、デモが起こるたびに警察の手によって参加者が殺害されており、行き過ぎた権力の乱用に対して以前から批判の声が上がっていました。例えば今回のデモが始まったばかりの4月28日には警察のバイクに蹴りを入れた少年が、怒った警察に銃で頭を打たれて死亡しています。こういった警察という立場を利用した人権侵害がデモに限らず日々頻発していることから、多くの国民が警察組織の改革を求めています。

 

2019年に行われたデモでは、警察が打った催涙ガス弾が頭に当たり18歳のディラン・クルスが死亡。2020年はハビエル・オルドニェスが警察によって暴行死させられた事件をきっかけに起こったデモで14人が死亡しています。

↑今回のデモに参加したディラン・クルスの姉

  

ルーカス・ヴィジャ 2021年デモの象徴

2019年はディラン・クルス、2020年はハビエル・オルドニェス。2021年のデモを象徴人物は間違いなくルーカス・ヴィジャでしょう。

彼はペレイラという街で平和的なデモ行進をしていたところを8発の銃弾を受け、一命を取り留めたものの脳死と診断されました。多くの国民が彼の回復を祈りましたが、7日後に残念ながら息を引きとりました。

ルーカスは学生でしたが、コロンビアをより良い国にしようと活動家としても活動していました。彼は平和を愛し、暴徒や警察の暴力には強く反対していたため、デモ行進をする時はダンスしながら場を盛り上げ、機動隊に握手をしにいく様子が動画に残っています。

ルーカスの葬儀で彼の父親は「彼は生前『僕が死んでも悲しい葬式はして欲しくない。ハッピーで喜びいっぱいのカーニバルにして欲しいんだ』と言っていました。」と語り、彼の意向通りにペレイラの街で踊りながら笑顔で彼とお別れをしました。

ルーカスの動画を見た多くのコロンビア人が彼の死に胸を痛めると共に感銘を受け、彼の意思を継ぐためにルーカスのトレードマークである青いTシャツと赤いバンダナを身につけ平和的なデモ行進をする国民が各地で現れています。

ルーカスを撃った犯人はまだ捕まっていませんが、La Cordilleraと呼ばれる犯罪組織の犯行とみられています。捜査によると、このデモで麻薬の流通が滞っていることに苛立った組織が、デモを引き連れていた活動家のルーカスを標的にしたのだと考えているそうです。

 

活動家の暗殺と大虐殺

ルーカスのように、近年では犯罪組織が「邪魔」とみなした活動家やリーダーたちが次々と暗殺されています。

2020年には300人以上のリーダーが殺害されており、犯罪組織の圧力によって3万人近くのコロンビア人が故郷を去る事を強いられました。国連によると2020年に起きた集団殺人は76件にもわたり、292人もの命が奪われたそうです。

2016年に政府との和平合意によって武器を置くことを決めたコロンビア革命軍の元戦士たちも2020年の間に73人も暗殺されており、これは今のドゥケ政権に変わって、和平合意の内容が見直されたことが原因と考えられています。

先住民の集会「ミンガ(minga)」は第三の都市カリに集まり、彼らの人権を訴えるデモ行進を行いました。暗殺されたリーダーの中には、自分たちのコミュニティを守ろうと声をあげた先住民のリーダーも多く含まれているのです。

このミンガに賛同するかたちでコロンビア中の先住民たちが各々の土地でデモ行進を行いました。

このデモが行われている15日間の間にも7人のリーダーが暗殺されたと言われており、2021年だけで既に62人のリーダーが殺害されています。

 

道を封鎖 苛立つ裕福層

政府への抗議として、今コロンビアのあらゆる道路がデモ隊によって封鎖されています。

そのため物資の流通が滞りスーパーの食料品が品薄になったり、薬品や酸素などの医療に関係する物資までもが封鎖された道路によって止められてしまっています。

しかし「封鎖解除しろ!」「なんて迷惑な!」「農家の苦労が無駄になるだろ!」と声をあげている多くは政治家や裕福層たち。当の農家たちは「今の政権が続くくらいだったら収穫が無駄になる方がマシだ」と抗議活動を支持していたりします。

以前クンディナマルカ県のジャガイモ農家の苦悩についてブログを書きましたが、コロンビアの農家は極貧・貧困層がほとんどです。コロンビア南部に住む知人と以前話したときに「コロンビア政府はこのような田舎を地図に載っていないのと同様に扱っている」と言っていました。政府は田舎のインフラ整備に予算を出そうとしないので、多くの農民たちは舗装されていない細い道路をジープや馬などを使って作物を売りに持って行かなければいけません。雨季になると道が冠水したり沼のようになりますが、それでも農民は食いつないでいくためにはその道を通るしか方法がないのです。

↑「(封鎖解除しろと言うけれど)ところで農民たちが作物を運ぶためのこの封鎖はいつ解除してくれるんですか?」と言う皮肉のツイート

 

今回の税制改革は、お金持ちにとっては痛くも痒くもない出来事だと思います。しかし、パンデミックで職を失ったり経済的に厳しい生活を強いられている貧困層や中間層にとっては生きるか死ぬかの問題であり、法案を撤回されたとしても中間層以下の事を全く無視した政策を続ける今の政権を野放しにしておくわけにはいかないのでしょう。

デモに参加することによってコロナウイルス感染や衝突に巻き込まれるリスクもありますし、既に生活にも様々な影響が出ていますが、今こうして政府に訴えなければ政治家たちの思い通りになってしまうと言う危機感が彼らを突き動かしています。

これらの抗議を受けてドゥケ大統領は階級1、2、3(貧困層)の家庭に対して公立高等教育を1セメスター無料にすると言う発表をしましたが、それだけでは解決には至らず。一つでも多くの要求を受け入れてもらえる事を願って、今この時もデモ行進は続いています。

 

↑メタ県北部のデモ。参加した2500人以上のほとんどが農民
↑イヴァゲのデモの様子

↑メデジンのデモ 200人以上の音楽家が参加

↑メデジンのデモ 警察と一緒に仲良く行進 

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住

ブログ: http://campesinita.com

Twitter: @maon_maon_maon

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