日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
市場価格の暴落に苦しむジャガイモ農家。そのワケは?
コロンビアの首都ボゴタから、隣のクンディナマルカ県のトゥンハと呼ばれる街まで北上すると、道端で山のように積まれたジャガイモと、疲れ切った顔をした農民を沢山見ることになるでしょう。今月の初旬からそんなニュースが様々なメディアで一斉に取り上げられるようになりました。
La carretera que une a Bogotá y Tunja, en Colombia, se convirtió en un mercado. Los productores de papa han tenido que llevar sus productos a ese lugar para no perder la cosecha por la crisis económica y los bajos precios que les ofrecen los intermediarios. #InternacionalesTR pic.twitter.com/M4LsPTFjj9
-- Telemetro Reporta (@TReporta) November 14, 2020
「買い手がいないんです。市場まで持っていくと更に損失が増えるので、道路に持ち出し、誰かが買ってくれるのを待つ他に方法がありません。」地元の農民であるアレハンドロ・ルイスはそう語ります。彼は一袋60kgのジャガイモを道ばたで7000ペソ(約200円)で売っていますが、事情を知った人は多めに払ってくれる事もあるといいます。
9月からパンデミックの影響で野菜の需要が減り、コロンビアではジャガイモの市場価格が暴落しました。一袋のジャガイモの買取価格は、パンデミック以前は5万ペソ(約1500円)でしたが、今では8000ペソ(約230円)まで下がり、一袋を生産する為にかかるコストである3万2千ペソ(約920円)さえも大きく下回る価格となってしまいました。人件費や中間業者まで持っていく運賃を差し引くと更に手元に残る収入が減ってしまう為、農民達は作物に手をつけることすらなくジャガイモは土の中で腐っていきその量はなんと200トンとも言われています。
パンデミックに限らない様々な原因
今回の出来事の大きな原因のひとつはなんといってもコロナウイルスによるパンデミックでしょう。コロンビアでは3月半ばからロックダウンが始まり、レストランやホテル、露店の営業がストップしました。それによって買い手がいなくなったジャガイモは、供給過剰となり大量に余ってしまっているのです。しかし原因はそれだけにとどまりません。なぜクンディナマルカ県のジャガイモがこんなに生産されているのか、その裏にはこんなストーリーがあります。ジャガイモ農家のルイス・エルネストはこう言います。「消費量だけの問題ではありません。過去に小麦、大麦、トウモロコシの供給過剰がおきたのです。今コロンビアは小麦95%、大麦90%、トウモロコシ80%を他国から輸入しており、みんな先祖代々続けてきたジャガイモ栽培に移行したのです。」
コロンビアのジャガイモ栽培は全て手作業で行われることから、ラテンアメリカで一番生産コストがかかると言われています。そのため機械化が進んでいるオランダ、ベルギー、ドイツ等のヨーロッパからの加工済みポテトの輸入が近年増えてきており、2009年の加工ポテトの輸入量は8,981トンだったのに対し、昨年2019年は58,616トンもの加工ポテトを輸入しています。加工されたジャガイモは人件費の削減に役立つためレストランなどで重宝され、国内のジャガイモ消費の大きな妨げとなっています。
農業における国の予算の不足やテクノロジーの遅れは、品質管理にも影響を与えています。コロンビアのジャガイモは害虫や菌が多く存在し、輸出するための植物衛生の条件をクリアできず、たとえ供給過剰になっても輸出するという対策をとることができないのです。
また長年問題になっている点で、中間業者の搾取があげられます。コロンビアでは野菜が農家から消費者に届くまで7、8カ所の中間業者を通すと言われており、市場価格の低下のしわ寄せはすべて生産者である農民が被る構造になっています。近年では農家を支援するためにフェィスブックなどを通じて産地直送販売を行う人も増えてきましたが、日本のほどネットショッピングが浸透しておらずネット環境も整っていないコロンビアでは、このような一部の人々による支援にも限界があるように感じます。
このニュースが話題になってから政府は小規模農家向けに300億ペソの支援をすることを発表しましたが、根本的な解決の為にはこれらの様々な要因にも目を向ける必要がありそうです。
みんなでジャガイモ農家を助けよう
今週11月14.15.16日はコロンビアは3連休です。この連休を利用して、クンディナマルカ県とボヤカ県はジャガイモ農家の支援のするためにキャンペーンを行うことにしました。
農民がジャガイモを売っている道路沿いでは、テントや横断幕を張り、交通整備や呼び込み等で農民の補助。首都ボゴタの広場には農民を招き、中間業者を通すことなく消費者に販売できるよう限定的な市場を設けました。キャンペーンの日時や場所はメディアによって拡散され、様々な政治家や著名人がSNSを通じて国民に呼びかけました。ジャガイモを買った人々は#PapaChallenge (ジャガイモチャレンジ)のハッシュタグと共に写真をツイッターに載せており、このハッシュタグは現在ツイッターのトレンドにあがっています。
中間業者を通さない販売のおかげで農民はより高い収入を得ること
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon