日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
武器を置いてコーヒーを育てよう!元反政府武装グループの社会復帰プロジェクト!
半世紀以上にもわたって繰り広げられたコロンビア政府と反政府武装組織であるコロンビア革命軍(FARC)の内戦は、2016年に和平交渉の同意という形で幕を下ろしました。
それまでコカインの原料となるコカの葉の栽培や営利誘拐などで資金を調達し生活してきたFARCの元メンバー達は、コロンビア政府や国際連合などの支援を得て、武器を持たない新しい生活を送り始めています。
コロンビア革命軍(FARC)とは
コロンビア革命軍は1964年に結成された中南米最大と言われる反政府武装組織です。
一時は2万人近くのメンバーを集め、コロンビアの国土の3分の1を支配していたともいわれています。政府軍や右派の組織などを相手に50年以上も内戦を続け、22万人以上が死亡し、多くの行方不明者と国内避難民をだしました。
2012年サントス政権時代にキューバなどの仲介を受けながら和平交渉を開始し2016年に和平合意が成立。その翌年武装解除を発表し、コロンビア革命軍は現在ひとつの政党として活動しています。
しかしながら和平合意に反対した約1500人のメンバーはFARC分離派として活動を継続しており、合意に伴って脱退したメンバーを殺害したり非合法活動を続けるなどしていることから、コロンビア政府との対立が120%収束したとは言い切れないでしょう。
麻薬や誘拐が資金源
コロンビア革命軍は軍事資金を麻薬取引や、コカ栽培への課税、誘拐による身代金の要求などに頼っていました。2001年には日本人を誘拐し27億円の身代金を要求した後、殺害する事件も起こっています。
和平合意をきっかけにコロンビア革命軍を脱退した戦闘員が、社会復帰できずに再び銃を持つ事のない様、コロンビア政府をはじめとした様々な組織が元戦闘員の更生を手助けしています。
更正プロジェクトとして広がるコーヒー栽培
元武装組織の戦闘員を社会復帰させる為のプロジェクトは国内で870近く存在し、それらのプロジェクトにはコロンビア政府だけでなく、フランスやオランダなど海外からの支援も多く受けています。その中でも今特に注目されているプロジェクトはカウカ県でのコーヒープロジェクトです。
コーヒー生産量が世界第3位のコロンビアですが、カウカ県のコーヒーは特においしいことで知られています。そのカウカ県の元戦闘員が作ったコーヒーに興味を示したのは、イタリアの老舗エスプレッソブランドであるilly。2018年の5月に元武装組織によって作られたコーヒー10万キロを、NY市場価格の変動に左右されない形で購入するという契約を結びました。カウカ県でコーヒー栽培プロジェクトに参加している元戦闘員は実に650人。栽培面積は計500ヘクタールにもわたります。現在ではillyに50万キロ、オーストラリアに10万キロを輸出するまでに成長しました。プロジェクトに参加している元コロンビア革命軍のアントニオ・パルド氏は最終的に250万キロのコーヒーを輸出することが目標だと語っています。
2019年には世界中から集まった5000以上のコーヒーサンプルの中からエルネストイリーアワード1位を受賞。更にコロンビアコーヒー生産者連合会が毎年選ぶ「Heroes de la Caficultora(コーヒー生産者のヒーロー)」に元コロンビア革命軍のメンバーが選ばれました。
コロンビア各地の元戦闘員によって作られたコーヒー
カウカ県以外にも、コロンビアでは各地で元反政府武装組織の戦闘員によって作られたコーヒーのブランドが存在します。それぞれインスタグラムなどのSNSで情報発信しているので、興味がある方が是非チェックしてみてください。
Café Espíritu de Paz(カウカ)
Café sabor la esperanza(カウカ)
Café Paramillo(アンティオキア)
Café Marquetalia(トリマ)
Café Tercer Acuerdo(トリマ)
Café Marú(メタ)
コーヒーの他にもクラフトビールや工芸品など、様々な方法で新しい人生を踏み出した元戦闘員たち。
しかし現イヴァン・ドゥケ大統領が和平合意反対派なことから合意の条件としてあげられていた項目のプロセスが滞っている点や、武装組織に家族を殺されたコロンビア人からの理解を得られにくい点など、課題はまだ山積みの様に思います。国内での争いが耐えないコロンビアですが、本当の平和が訪れる日は来るのでしょうか。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon