England Swings!
パブで上手に「ラウンド」したい
「ラウンド」という習慣をご存じだろうか。パブで飲むときに仲間で順番に支払いをすることだ。
パブに入ったらまず飲み物をカウンターで注文して、支払いもその場で済ませる。そのとき、たとえば3人連れならAが3人分を買う。
飲みながら各人のグラスに残った酒の量をさりげなく確かめ、全員が飲み終わるころ、ごく自然にBが2人のグラスを指して、「同じものでいい?(same?)」なんて訊く。そして空いたグラスをお行儀よく戻しながらカウンターに向かい、また3人分を買って帰ってくる。
それも飲み終わると、今度はCが同じことをする。こうして順番がぐるぐる回る。これを「ラウンド」と呼ぶ。パブをはしごしながらのラウンドもありだ。
順番そのものも同じ呼び方で、たとえば「次は自分のラウンドだ」と言ったりする。この順番は年齢や立場で決まることもあるけれど、その場で自然発生的に決まることも多い。そしてこの自然発生のパターンが外国人にはわかりにくい。自分の番はいつなのだ?
これまでは順番に支払う人たちをなんとなく見るだけで、自分が支払いに加わる機会がなかった。夫が酒を飲まないので、わが家が友人とパブに行くのは食事をするときぐらい。でも残念ながら食事にラウンドはない。たとえ飲みに行っても夫がわたしの分も払ってしまったりして、全然ラウンドが回ってこない。
もちろん夫抜きでもパブに行くことはある。けれど、覚えている限りではそれぞれに飲み物を買っていた。理由を考えてみると、仕事上の集まりでそれほど親しくなかった、人数が多過ぎた、英国の習慣を知らない(あるいは知っていても実践しない)外国人の比率が高かった、という感じかな。
喫茶店に入る感覚で少人数で1杯ずつ飲むような場だと、誰かが「今日はいいよ」とごちそうしてくれることも多い。これも気の長いラウンドの始まりのようなもので、同じメンバーで次に出かけると、別の人が「この前はあなただったから」と申し出る(みんな結構覚えているものだ)。ただこれは日本でもどこでも、よくあることだろう。こういう状況でなら、わたしも支払いをしたことがあった。
それでも、映画で見るようにきれいに順番が回ってくるラウンドをしてみたいなあとずっと思っていた。そしてついにチャンスが訪れた。最近始めた歌のレッスンの後、仲間と毎週立ち寄るパブでのことだ。
メンバーは先生とピアノ伴奏者を入れて合計8人。そのうち6人が英国人(しかもイングランド人)という、外国人の多いロンドンでは珍しいグループだ。夫は、英国の定番ジョークである「スコットランド人はケチ」を持ち出して、スコットランド人が混じっていたらラウンドが成立しないかもね、と勝手なことを言って笑うけれど、わたしはあまり賛成できない。だって、これまでケチなスコットランド人に一人も会ったことがないから!
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile