England Swings!
暗い冬はSADなランプでハッピーに
英国の1月はどこかぼんやりしている。日本ほど新年を長く祝わないので、カウントダウンで新年を迎えるあたりをピークとして、2日からほぼ日常が戻ってくる。ビッグイベントのクリスマスが終わったばかりで気が抜けているうえ、すぐに大きな楽しみもなく、外は寒いし日も短い。おまけに天気も悪い季節だ。1月の第3月曜は1年でもっとも落ち込む日(ブルーマンデー)とさえ言われている (科学的な根拠が不十分という説もある)。
北海道より少し北に位置するロンドンでは、冬の日照時間が日本に比べてぐっと短い。昨年の冬至の日の出は午前8時4分、日の入りは午後3時55分。日本育ちのわたしにとっては朝8時はまだ薄暗く、夕方4時はもう夜のように感じられる。逆に夏は夜9時をすぎてもまだ明るい。
日照時間や天気の良し悪しが気の持ちように大きく影響すると感じるようになったのは、英国に引っ越してからだ。日が長い夏は上機嫌で過ごせるのに、暗い時間の長い冬は気がふさぐ。いつまでも太陽が出ないので朝は起きる気がしないし、ランチのの後にひと息つくと外は夕方の日射しで寂しい。いつも穴の中にいるようでやたらとふとんに潜り込みたくなり、そんなぐうたらな自分を責めるから心がますます晴れない。更年期もからんでいるのだろうけど、それにしても特に冬は気分がすっきりしない。
やがて、これはもしや、話に聞く季節性感情障害(Seasonal Affective Disorder)というものでは? と考えるようになった。日照時間の変化から起きるうつ状態のことで、英語の頭文字を取ってSADと呼ばれる。偶然とはいえ、sad(悲しい)という名のうつ症状なんて、ブラックユーモアが効きすぎじゃないだろうか。
人の体は日光を使ってさまざまな機能を保っているので、日照時間が変わると体内時計が乱れやすい。そうなるとホルモンバランスもくずれて、疲労感、倦怠感、気分の落ち込み、集中力の欠如、食欲や睡眠の障害、ひきこもり、ひどくなると自殺願望まで起きるというからやっかいだ。人間にとって太陽はとても大切なものなのだ。
日本では「冬季うつ病」とも言われるくらいなので、SADは冬に多い。けれど夏にも発症することもある。考えてみれば、緯度が高い北欧や南極では白夜があるくらい夏の夜が長い。1日中明るかったり、逆に冬は1日中暗かったりしたら、いつ寝ていつ起きたらいいかわからなくなって、生活のリズムを保つのが難しそうだ。実際、年間の日照時間の差が高い地域ほどSADの発症率は高いそうで、われらが英国では3人に1人も悩まされている(思っていたよりずっと多い!)。 子どもの頃から慣れている人でも体が適応しないのだから、日本から来たわたしが不調を感じるのは自然のことかもしれない。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile