England Swings!
ペルシャ音楽でロンドンからイランを想う
ロンドンには、わたしを含め、外国人が多い。2021年の国勢調査によれば、グレーターロンドン地区の人口約890万人のうち外国生まれは37%(つまり約330万人)にのぼるそうで、英国以外の文化やお国柄に触れて驚いたり視野が広がったりするのが楽しい。
4月の初め、友人に誘われてイランの伝統音楽(ペルシャ音楽)を聴いてきた。コンサートの会場はロイヤル・アルバート・ホール。夏には音楽の祭典、プロムスも開かれる、ロンドンを代表するホールのひとつだ。
誘ってくれたイランの友人は英国生まれのマイケルと、17歳で留学に来たままロンドンに残っているシリン。夫の長年の親友夫妻で、わたしもこの18年、ずっと親しくしてもらっている。恥ずかしながらペルシャがイランになったことさえ最初は気づかなかったのんきなわたしも、彼らから少しずつ学んだ今、イランは親しみを覚える国のひとつになっている。
ロイヤル・アルバート・ホールには、想像以上にイランにルーツがあると思われる人々が集まっていた。老若男女を問わず、着飾ったりカジュアルだったり、さまざまな姿がある。イラン国内では女性はヒジャブで髪を隠すことが義務付けられているけれど、この夜ヒジャブを着けていた女性は、収容人数7000人のホールの中で数えるほどだった。
この日の出演はピアニストのアヌシラヴァン・ロハーニ(Anoushiravan Rohani)と歌手のホマユーン・シャジャリヤーン(Homayoun Shajarian)で、シリンによれば、どちらもイランで大人気の国民的アーティストだ。御年84歳のロハーニはシリンが子どもの頃から活躍していたそうだし、シャジャリヤーンは父も歌の巨匠と呼ばれた家の出身で、本人は反体制派でもある。
満席の会場は、開演前から観客があちこちで知り合いの顔を見つけては手を振り合ったりして、和やかな雰囲気に満ちていた。お国柄なのか、知らない同士でも親しく話をするようだ。
と、のんきに構えていたら、前の席に座っていた見知らぬおばさまに「あなた、ペルシャ語わかるの?」とにこにこ話しかけられた! 「わからないんですけど生演奏が聴いてみたくて」と答えると、ペルシャ音楽や独特の楽器を親切に教えてくれた。休憩にはシリンもそのマダムたちと親しげに話をしていた。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile