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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

高くなったハードルを越えて2年半ぶりの里帰り

 里帰りでは、日本でしかできない用事を済ませることもある。書類の手続きをしたり、海外で手に入りにくいものを買ったり。今回わたしは、ちょっとした体調不良のことで日本のお医者さんの話を聞きたかった。英国ではNHSで無料の診療をしてくれるけれど、治療方針も日本と違うし、命に関わらない軽症を調べるには何か月も何年も待つことがあって、その間ずっと不安を抱えることになる。それに海外に住んでいてもわたしの体は日本製なので、やはり日本の基準を知ると安心するのだ。日本で人間ドックを受けてお医者さんとも話すことができて、かなり気持ちがすっきりした。

 おいしいものを食べるのももちろん里帰りの大きな楽しみだ。今回はほとんど家族と過ごしていたので、実家の定番おかずや子どもの頃によく食べたものをお腹いっぱいおさめた。和食はロンドンでも人気だし、材料もずいぶん手に入るようになったけれど、クオリティーの高い和食が気軽に食べられる日本はパラダイスなのだ。

里帰り - 3.jpeg

今回、久しぶりに夏に帰ってみて驚いたのは枝豆のおいしさだ。ロンドンの和食屋さんにはたいてい前菜に枝豆があって人気なのだけど、日本で食べる枝豆のおいしさは格別だった。その日の朝に穫れたものをその日のうちに茹でて食べた時の衝撃! 日本で食べるものは贅沢でなくてもいい。懐かしいものを食べるのが嬉しいのだし、誰と食べるかも大切だから。筆者撮影

 里帰りで気になっていた用事を片付け、懐かしいものをお腹に入れ、会いたかった人たちと話していると、気持ちがどんどん明るくなってくる。海外で暮らし始めてから、周りの環境を受け入れることで自分の中に確かにあったものが薄まっていき、足元がふらふらするのを感じることがある(映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、マーティが写真から消えかかる時のように)。それが日本に戻るとぶわっと復活する。知らないうちにぎゅっと上がっていた肩の力が抜ける。たぶん家族の顔を見たり、なじみの街を歩いたりという小さなことが積み重なって、ああ、そうだった、こういうことだったと、心がいろいろ思い出して、自然にふっくら満たされるのだと思う。

 里帰りはいつでも嬉しいけれど、今回はこれまでになく楽しく感じられた。ロンドンに戻ってからもなんだかいい気分が続く。やっぱりコロナ後初めてで、久しぶりだったからかな。考え方や衛生観念の違う人たちに囲まれて里帰りどころか外出もできなかったロックダウンや、日本と英国両方の感染を心配し続けた2年半の日々。気がつかないうちに我慢が積もって疲れていたのかもしれない。そういえば日本に行く前はずいぶんカリカリしていたっけ。

 最近になってロンドン在住の友人たちと、コロナ後初めての里帰りはとてもよかったよねという話になり、よくがんばったよね、わたしたち、と労い合った。みんな同じように感じていたのね(考えてみると、生まれ育った場所に住んでいても同じかもしれない)。気持ちを分かち合える人が近くにいることは、海を渡ってでも会いたい人がいるのと同じくらい心強い。

マスク - 1.jpeg

日本から持ち帰ったいろいろなマスク。今回の里帰りでいちばん驚いたのはマスクの種類の充実ぶりだった。アートのように立体的になったもの、ピンクや黄色や肌をきれいに見せる色、やわらかい耳かけ、暑さに耐える素材などなど。あまりにも種類が多くて選ぶことができなかったし、どれも顔にぴったりフィットしてすばらしい。英国から持っていった水色の、サイズが合わずに脇があいてしまうマスクをしていた自分が恥ずかしくなった。筆者撮影
 

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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