England Swings!
ロンドンで観た東京オリンピック2020
パンデミックの中で開かれた東京オリンピック2020が終わった。わたしが英国でオリンピックを観るのはこれで4回めだ。特にオリンピックが好きというわけではないけれど、今回は出身地東京での開催ということで特別な思いもあり、日本からの情報をチェックしつつ、周りの英国人、ロンドン人の反応もそれとなくずっとうかがっていた。
東京オリンピック開催にまつわる事情は、英国でも詳しく伝えられていた。2015年のエンブレム盗作に始まり招致活動の賄賂疑惑、数々の辞任劇(オリパラ開閉会式のショーディレクター、小林賢太郎氏の開会式前日の解任はトップニュース扱い)、開催に関する議論も、国民の半数が反対していることも、開催中に東京の感染者が急増したこともニュースとして流れていた。
ところがところが、開催直前になっても東京オリンピックに特に興味を示す人はあまりいなかった。EURO2020でイングランドが決勝に進出して、7月上旬までサッカーに夢中だったのはわかるけれど、パンデミックでも開催するかどうかは世界的な問題で、日本ではこんなに議論しているというのに。縁のあるふたつの国の温度差に驚いたものの、考えてみればそんなものかもしれない。他の国で開かれるオリンピックに、開催前からそんなに関心を抱くだろうか。時差があって、あまりわたしだって前回のリオ大会のことは何も知らなかったし(距離の隔たりが大きくなるほど、関心が薄れる気がする)。その意味では、少なくとも開催の是非やスキャンダルがニュースになったぶん、東京大会は注目が集まった方なのかもしれない。
とはいえ、日本人のわたしに気を遣って、友人やご近所さんがたまに「オリンピックどうなってるの?」と聞いてくれることはあった。もう来週だよと答えると、「えっ、そんなにすぐ? また延びるかと思ってた」「本当にやるの? パンデミックなのに?」という反応。大反対というわけではなくても、信じられないと言う人や、「無観客でやるなんて!」と驚く声が多かった。直前にEURO2020で6万人以上の観客を入れたサッカーの試合を見ていたので、不思議だったのだろう。そのたびにプチ親善大使になって日本のワクチン接種率の低さなどを説明しながら、どこか切なかった。日本を知ってもらいたい気持ちと感染拡大の心配が心の中で互いに反対方向に引っ張りあいをしているようで。
最初のハイライトである開会式も、日本人以外で観たという話はあまり聞かなかった。短いダイジェスト版を後で観た人がちらほらいた程度。マスコミでは1800台以上のドローンが空に描いたエンブレムやテニスの大坂なおみ選手による聖火の点灯をよく取り上げていた。それから「五十音順での選手入場は混乱したけどユニークでおもしろい!」という声も。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile