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ラッシャー貴子|イギリス

LGBTQ+として初めて紙幣に印刷されたアラン・チューリング

英国の紙幣は5ポンド、10ポンド、20ポンド、50ポンドの4種類。肖像や色使いが額面によってそれぞれ異なり、サイズも微妙に違う。この記事の時点で、1ポンドは約153円。 写真:iStock-Zedelle

 新しい50ポンド紙幣が6月23日から流通し始めた。英国の紙幣にはすべてエリザベス女王の顔が印刷されているが、裏側は国の発展に貢献した人物が刷られている。今回新しくなった50ポンド札には「コンピュータ科学の父」と言われる天才数学者、アラン・チューリングが登場している。

 さまざまな功績を残したチューリングだが、もっともよく知られるのは、第二次世界大戦中に独自の暗号解読機を開発してナチスドイツの暗号エニグマを解読し、連合軍の勝利に貢献したことだろう。コンピュータ科学の基礎を築いた人でもあり、コンピュータがこんなに普及した21世紀になっても世界で高く評価されている。

 チューリングのことは、映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(原題:Alan Turing: The Enigma)(2014年)でご存じの方も多いだろう。彼の人生をミステリータッチで描いたこの映画は、アカデミー賞脚色賞受賞をはじめ多くの賞を受け、あるいは多部門でノミネートにされた大作だ。主演のチューリング役、ベネディクト・カンバーバッチの熱演が心に残る。

チューリングの顔がお目見えした新しい50ポンド札(国営放送BBCの朝の情報番組のツイートより)。この裏面はエリザベス女王のお顔になっている。

 とはいえ、実はわたしは新50ポンド札をまだ見ていない。もともと50ポンド札(現在約7500円)は流通している数が他より少なくて、使う機会も多くない。一度も50ポンド札を見ないまま4年の英国生活を終えたという日本の友人がいるほどだ。そしてこのお札、実際に使うと嫌がられることも多い。出したとたんに相手がぎょっとするのがはっきりわかることもある。ぎょっとされたこちらの方がぎょっとしてしまう。もしニセ札だったら大損になるからなのかな。スーパーのレジで、目の前であからさまに本物かどうか透かして確かめられたりすると、ひどくいけないことをしているようでバツが悪い。

 さらに最近ではキャッシュレスが進んでいたし、このコロナ禍でネットショッピングが急増した。接触を減らすために店頭でもキャッシュレス決済しか受け付けないところもあって、現金を使う機会はますます減っている。せっかくの新50ポンド札、早くこの目で見たいのだけれど。

 新50ポンド札の登場で、英国の紙幣はすべてがポリマー製になった*。2016年から1種類ずつ、紙の札から切り替えていたのだ。最初に変わったのは5ポンド札。裏側には第二次世界大戦の英雄、ウィンストン・チャーチル元首相が印刷された。2017年の10ポンド札では18世紀の作家ジェイン・オースティン、2020年に発行された20ポンド札では英国を代表する画家の一人、ターナーが登場している。(*新札はすべてポリマー製だが、旧20ポンド札、旧50ポンド札は2022年9月まで使うことができる)

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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