England Swings!
サマータイムが連れてきた明るい季節
だが、最近ではデメリットの方が目立ち始めて、サマータイムは廃止の方向に進んでいる。まず何と言っても時間の調整がめんどうだし、トラブルのもとだ。テクノロジーが自動的に時間を変更してくれるとはいえ、サマータイム制度がなくなれば時間調整のシステムを作ること自体が不要になる。
また最近の研究では、たった1時間とはいえ時間が変わると、睡眠障害やストレスの増加など健康に悪影響が出ることが指摘されている。偶然にもわたしは今年初めて、サマータイム実施後の2、3日間、眠りのリズムがすっかり乱れて、ちょっとした時差ぼけ状態になった(年齢のせいで体が変化に耐えにくくなっているのかもしれない、あまり認めたくないけれど)。大人でもそうなのだから、小さな子どもへの影響はもっと大きいかもしれないし、家畜への餌の時間が乱れるのでサマータイムを嫌う農家が多い。
それに緯度が高くて夏と冬の日照時間の開きが大きいヨーロッパでは、サマータイムがなくても、明るい夜をゆったり過ごす生活スタイルがじゅうぶん続けられそうだ。何しろ真夏はロンドン周辺なら朝4時前から明るくなり、夜は10時ごろでもまだ空がうっすら明るい。標準時間になっても夜の8時、9時で明るいのなら、残業も少ないヨーロッパではきっとたっぷり楽しめる。
EU諸国では、すでに今年を最後にサマータイムを廃止することが決まっている。英国でも取りやめの議論が毎年のように起きるものの、今のところその予定はない。今年はコロナ対策でそれどころではないのか、EUも離脱してますますわが道を行っているのか。
今年のサマータイムが始まった翌日、3月29日からイングランドでは「ステイホーム」の規制が少しゆるみ、2世帯あるいは6人までが屋外で会えることになった。さらに今年は、キリストの復活を祝うイースターがサマータイム開始の翌週にあたり(毎年日程が変わるので、イースターもわたしには難易度の高いイベントだ)、金曜から月曜まで4連休だったので、暖かい日差しに誘われてたくさんの人が繰り出した。
ピンクの木蓮や黄色のレンギョウが咲く公園を連れ立って歩く人、自転車で走る人、大きな木の下でお弁当を広げる人、走り回る子どもたち。わたしが住んでいるフラット(集合住宅)の共有の庭でも、高齢のご両親を訪ねてきたお子さん一家が芝生の上にピクニック用の毛布を敷いておしゃべりをしていた。足の悪いお父さんが腰掛けたベンチの周りには黄色いラッパ水仙が花盛りで、午後の太陽に明るく照らされていた。
日が長くなり暖かくなった解放感、久しぶりに家族や仲間に会った喜びで、みんなが嬉しそうだった。それだけのことなのに、1月からの寒くて長いロックダウンの後では、とても幸せな光景に感じられた。
サマータイムで気分も明るい春のロンドンです、とブログをしめくくろうと思っていたのだが、連休最後には北極から冷たい風が吹いてきて気温が急降下。なんと2日も続けて雪が降ったのだった。ああ、山のようなヨーロッパの天気よ。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile