England Swings!
英国の国勢調査提出で考えたこと
今回わたしがいちばん興味を持ったのは、「あなたの国民意識をどう表現しますか?」という質問だった。選択肢の項目にはイギリス人、イングランド人、ウェールズ人、スコットランド人、北アイルランド人、その他記入、とある。
英国はイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの「国」から成る連合王国だ。イングランドを除く3つの国にはそれぞれの政府があり、ある程度まで独自の制度を設けることができる。たとえば、今回の国勢調査もスコットランドだけは延期しているし、コロナ関連の規制は4つの国がそれぞれ独自に定めている。
そして自分が生まれたそれぞれの「国」に所属するという考える人が意外に多い。サッカーやラグビーで自国のチームを応援するのはもちろんのこと、自分は「イギリス人(英語ではBritish)」である前に「イングランド人(English)」、「ウェールズ人(Welsh)」だと言うのだ。ただ、若い世代は「イギリス人」を好む傾向があるとわたし自身は感じているので、この質問がどんな結果になるのか、とても興味がある。
また長い歴史の中で、この国はさまざまな理由で外国人を受け入れてきた。移住してきた本人ならこういう質問には自分の出身国を答えるかもしれないが、外国生まれの両親のもとでこの国に生まれたら、あるいは祖父母は外国生まれで両親から英国生まれだとしたら、どう回答するだろう。同じように英国内の出身「国」を選ぶのか、「イギリス人」にするのか、あるいは親の出身国を答えるのか。生まれ育った環境によって違うだろう。まさに「人それぞれ」だ。
さて、わたしは何と答えたか。意識の問題なので、国籍とは別にどう答えても自由だ。今月、渡英して15年になったわたしは、「その他、日本人」と答えた。初めて旅行した時以来の英国好きだったので、たまたまこの国に住むことになった時にはいつか「イギリス人」になれような気がしていた。今思えば20歳で出会った英国に対する幼いあこがれで、恥ずかしいような懐かしいような気がする。実際には、ロンドン暮らしが長くなればなるほど自分が日本人であることを意識するようになってきた。何をするにも日本人としての目や頭を通して見て考えているからだ。かといって、日本に一時帰国した時に、何年もずっと乗り換えをしていた駅で迷ってしまったり、人にぶつかってとっさにソーリーと英語で言ってしまったりすると、そこに自分の暮らしがないこともよくわかるのだけれど。
多様性やアイデンティティーの問題は意外に身近にあって、個人のことではあるけれど社会にも影響をおよぼしていくと今回の国勢調査で学んだ気がする。わたしたちひとりひとりが社会を作っているのですね。
各質問を含めた国勢調査の日本語翻訳版にご興味ある方はこちらからどうぞ(→英国2021年国勢調査日本語翻訳版)。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile