イタリアの緑のこころ
イタリア語 カタカナの読みに頼るべからず、日本語を学ぶイタリア人の発音に襟を正そう
「イタリア語は発音が簡単」と思い、入門書に書かれたカタカナの読みに頼って、イタリア語の勉強を始めると、日本語訛りが強いイタリア語を話す癖が抜けず、苦労することになるので気をつけましょう。
旅行中などに、一時的にイタリア語が必要であるという場合なら、それでもいいのですが、もしきちんとした発音を身につけたいと思ったら、できるだけ早いうちに、発音記号や音声教材を通して、イタリア語の表記と発音のきまりを身につけ、カタカナで記された読みに頼るのを卒業する必要があります。一度癖がつくと、後から直すのは至難の業になるからです。
裏を返して、イタリア人が、知っている日本語の地名や、見聞きしたことがある日本語のあいさつなどを発音するとどうなるか、見てみましょう。
「オサーカ」「サヨナーラ」
一つ目は「大阪」、二つ目は「さよなら」、「さようなら」の、イタリア人がしがちな発音です。
Milano、Torino、Pisaといったイタリアの町の名は、イタリア語における発音をカタカナで書くと、「ミラーノ、トリーノ、ピーサ」となります。イタリア語の単語の多くは、終わりから二つ目の音節に強勢アクセントが置かれ、その音節が母音で終わる場合には、長音となるためです。オサーカ、サヨナーラと言ってしまうのは、日本語の地名やあいさつにも、イタリア語の発音のきまりを応用して発音するためです。
日本語を学ぶイタリア人であっても、日本語の下にアルファベットで読みを書き、その読みに頼って学習していると、出欠の返事に、「はい」と言う代わりに、「あい」と言ってしまい、また、「コーヒーください」と言うつもりで、「こいください」と言ってしまうことになります。
これは、一つには、イタリア語ではhは表記されていても発音しないためです。また、イタリアの人には、母音の長短の区別を聞き分けることがひどく難しく、そのために、日本語の長い母音を短く発音したり、逆に短母音を長く発音したりしてしまうことがあるためです。
アイとコイを口にする #イタリア人? 〜「こいください」と #日本語 の授業中、男子学生が言いました。コイにも「鯉」と「#恋」があって、日本の錦鯉は #イタリア語 でもcarpa koiと言うのですが、彼が「ください」と言いたかったのは、そのどちらでもなく、#コーヒー でした。https://t.co/BFeKLK68rZ pic.twitter.com/3g9h5fGrpb
-- Naoko Ishii (@naoko_perugia) November 10, 2018
学習者は、新しい外国語を学ぶ際に、母語の知識や習慣を、無意識のうちに応用しているもので、外国語学習における母語の影響は大きいのですが、その影響がとりわけ大きく根強いのは音声面です。先述の「オサーカ」や「あい」も、そうした母語の影響、転移によるものです。そして、日本語の読みをアルファベットを通して学ぶと、音声面における母語の影響がより深刻なものになってしまいます。
同様に、日本人のイタリア語学習者が、発音をカタカナ表記の読みに頼ると、母語の発音の癖が根づいてしまい、後からでは修正するのが難しくなってしまいます。
イタリア語は、「子音+母音」で構成される音節が多いとは言っても、pasta、spaghettiにおけるsという子音のように、子音のあとに、母音ではなく子音が来る場合もたくさんあります。イタリア語の発音を「パスタ」、「スパゲッティ」とカタカナ表記の読みを通して覚えると、イタリア語には本来存在しない、s-に続く母音を発音する癖がつく上に、いつまでも言葉を正しく覚えられない恐れがあります。
耳で聞き分けるのが難しいRとL、BとVの区別も、これらの子音を書き分けられないカタカナ表記の読みに頼って学習すると、ますます難しくなります。
外国語学習における母語の音声面での影響をできるだけ少なくするためにも、できるだけ早いうちに、表記と発音のきまりを覚え、カタカナ表記の読みに頼ることをやめ、その外国語そのものの音声のインプットを多く耳にするように、心がけてみましょう。
関連記事へのリンク
- イタリア語学習メルマガ 第2号 「イタリア語の効果的な学習法 ― 音声の大切さ(1)
著者プロフィール
- 石井直子
イタリア、ペルージャ在住の日本語教師・通訳。山や湖など自然に親しみ、歩くのが好きです。高校国語教師の職を辞し、イタリアに語学留学。イタリアの大学と大学院で、外国語としてのイタリア語教育法を専攻し卒業。現在は日本語を教えるほか、商談や観光などの通訳、イタリア語の授業、記事の執筆などの仕事もしています。
ブログ:イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia
Twitter:@naoko_perugia