Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
ウルルの夜空に浮かび上がる古代神話 〜神秘的な音と光のショー「ウィントジリ・ウィル」
オーストラリアが誇る絶景スポット、「ウルル」。オーストラリア中央部にある世界最大級の一枚岩だ。私自身、何度も訪れているが、行く度に大きな感動と元気をもらえる唯一無二の場所でもある。
この場所は長年、入植した西洋人によって名付けられた「エアーズロック」という名称で呼ばれてきたが、昔からこの地で暮らしてきた先住民の人々が呼んできた地名である「ウルル」と呼ぶのが一般的となりつつある。現在は、国立公園名も「ウルル」を正式名称として使用している。
1987年にユネスコの世界遺産に登録され、一生に一度は行ってみたい観光スポットのひとつとしてその名があがるこの場所は、その類稀なる景観だけでなく、先住民たちによって何千年も前から継承されてきた素晴らしい文化が根付いている。
そのため、現在、世界中に1,200件以上ある世界遺産の中でも、40件ほどしかない自然と文化の両面から貴重であると認められた「複合遺産」のひとつだ。
そんな、ウルルならではの大自然と古代文化の融合を最新のテクノロジーによって蘇らせた壮大なスケールのナイト・ショーが話題となっている。
ウルルの夜空を彩る音と光のショー「ウィントジリ・ウィル」
先住民の人々にとっては聖地であり、畏怖を感じるほど神秘的なウルルの地で体験できる没入型アクティビティとして、昨年から始まった「ウィントジリ・ウィル」。
この地に何千年も前から根付くアナングの文化で最も重要な創造神話のひとつである「マラの物語」の第一章を 1,100機のドローンとレーザー、プロジェクションなどの最新テクノロジーを駆使して、大自然をバックに描き出す壮大な音と光のショーだ。
ウィントジリ・ウィルとは、遙か昔からこの地で暮らしてきた先住民たちが使用するピチャンチャチャラ語で「地平線まで続く美しい眺め」を意味する言葉。
先住民が語り継いできた神話について何年もかけて協議を重ね、綿密に構想を練った上で、一般の人々へ公開できるショーとして形にしたという。これほど大規模なドローン&レーザー・ショーが毎晩定期上演されるのは、世界初なのだそうだ。
雄大な大自然の中で夕暮れのピクニックを楽しむサンセット・ディナー
ウィントジリ・ウィルは毎晩2回上演されているが、今回私が体験したのは、日没の1時間半前から始まる「ウィントジリ・ウィル・サンセット・ディナー」。
先住民たちが食してきたブッシュタッカー(ブッシュフード=野の食べもの)をふんだんに使ったアペタイザー(オードブル)やカクテル、ディナー・ハンパーのディナーが付いたパッケージになっている。
夕陽を浴びて刻々と色を変える壮大なウルルのサンセットを眺めながら、オリジナルのカクテルと共に、ミドリアリをトッピングしたキュウリやタルト、レモンマートル風味のクロコダイル・カレーパイやチキンなど、他では味わえない貴重で珍しいグルメ体験ができる。アリやワニなどと聞くと一瞬ギョッとするかもしれないが、どれも目から鱗の美味しさだ。
ウルルの反対側に目をやれば、巨大な奇岩群「カタジュタ」がシルエットになって夕闇に溶け込んでいくのが見える。地平線に沈む間際の太陽が、赤茶けたアウトバックの大地を一瞬だけさらに紅く染めていく───
雄大なアウトバックでの夕暮れピクニックを楽しんだ後、しばらくすると、先住民のナビゲーターによるショー開始のアナウンスがあり、観客は自然と一体化するように作られた木製デッキへと移動。合図と共にドローンが大空高く舞い上がり、壮大な創世神話「マラの物語」が幕を開ける瞬間だ。
目の前ではレーザーとプロジェクションによる光の演出が繰り広げられ、その上空では1,100機のドローンがまるで生き物のように舞う。この大自然の中の野外劇場の奥には、畏怖堂々と鎮座するウルルが夕闇の中に浮かび上がり、こちらを見守っているかのようだ。その姿は、まさにここが聖地であることを改めて実感させてくれるほど神々しい。
正直に言うと、最新のテクノロジーと先住民の伝統的文化の融合という発想に、少し抵抗があったのも事実...。しかし、実際に訪れ、五感で感じたウィントジリ・ウィルは、太古の昔からこの地で暮らしてきた人々が大切にしてきた物語の1ページをちょっとだけ覗かせてもらったような気持ちになれる、素晴らしいショーだった。
地球創世の物語を宇宙空間に描き出すかのような、神秘的なウルルの夜を是非一度体験してみてほしい。〈了〉
上で紹介した「ウィントジリ・ウィル・サンセット・ディナー」の他に、ディナー・ハンパーが付かないツアーが1日2回ある。こちらは日没前30分前と日没の約 2 時間後にスタートで、どちらもチーズなどのおつまみとワイン付き。とはいえ、ウルルとカタジュタの夕暮れも同時に堪能できるウィントジリ・ウィル・サンセット・ディナーがイチオシだ。
Special thanks to:Tourism Northern Territory, Voyages Indigenous Tourism Australia
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
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