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平野美紀|オーストラリア

オーストラリア列車旅:豪華寝台列車ザ・ガンで赤土のアウトバックへ

ザ・ガンのラウンジカーでは、いつでも上質なオーストラリア産ワインやビールを愉しめる。一杯やりながら車窓の夕暮れをぼーっと眺めて過ごすひとときは、豪華寝台列車の旅ならではの贅沢。(2024/8/3 筆者撮影)

今年で95周年を迎えたオーストラリア中央部を走る大陸縦断鉄道ザ・ガン

日本列島とほぼ同じ2,979kmを結ぶ豪華寝台列車で、壮大なアウトバックを駆け抜ける体験は一生もの。一度は乗ってみたい列車のひとつだ。

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今月(8月)4日に「ザ・ガン95歳の誕生会」が開かれるのに合わせ、私も久しぶりにザ・ガン号に乗り込み、会場となるアリス・スプリングスを目指した。

今回私が乗車したのは、ダーウィンからアリス・スプリングスまでの1,413kmの区間。1泊2日の列車旅だ。



ザ・ガンの旅 1日目:ダーウィンを出発、キャサリンへ

トロピカルな雰囲気あふれる熱帯の町ダーウィン。この町の郊外にある駅「ダーウィン・ベリマ・ターミナル」から、ザ・ガンの旅が始まる。

早朝、前泊していたホテルからザ・ガンのゲストのために用意された朝食会場へと向かう。ほんのりと明るくなり始め、群青から紫、紅のグラデーションが幻想的な朝焼けの空が広がっていた。

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ザ・ガンのゲストのために特別に用意された朝食会場でチェックインが行われる。(2024/8/3 筆者撮影)

朝食を終え、ダーウィン市街地からおよそ20km離れたところにある乗車駅「ダーウィン・ベリマ・ターミナル」に到着。すっかり昇り切った太陽の光を燦々と浴びて、先頭車両が見えないほど長いザ・ガン号が待っていた。

トレイン・マネージャーであるトム・ボースウィック氏によると、列車の全長は700m以上。最長のパッセンジャー・トレインとして、平均36両の客車を牽引しているそうだ。

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椰子の木が並ぶトロピカルな雰囲気の素朴なダーウィン・ベリマ・ターミナル駅。(2024/8/3 筆者撮影)

それぞれ割り当てられた客車の前でバスを降り、簡単なチェックインを済ませた後、自分のキャビンへと乗り込む。しばらくすると、この客車を担当するスタッフが挨拶を兼ねて現れ、キャビン内の設備について説明してくれた。

次にドアをノックしたのは、この列車のヘッド・シェフだった。彼は私のアレルギーについて尋ね、列車内でこれから提供されるメニューが大丈夫か確認しに来てくれたのだ。こうした細やかな配慮は、何らかの食物アレルギーがある人にとってはとくに、本当に素晴らしいサービスだと思う。

さすが、世界に名だたるラグジュアリーなクルーズ・トレインだ。

出発の警笛が椰子の木や熱帯植物が生い茂るダーウィンに別れを告げ、ゆっくりと列車が動き出す。これから始まる豪華寝台列車の旅に、いやでも胸が高鳴る。

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ザ・ガン、ゴールドクラス・ツインキャビン。昼間は横長のソファタイプのシートで車窓を眺められるようになっている。(2024/8/3 筆者撮影)

列車は徐々にスピードを上げ、出発から1時間も経たないうちに車窓に流れる風景はトロピカルな雰囲気から一変し、少し乾燥した雑木林が広がり始めていた。

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ゴールドクラスのバスルームとアメニティグッズ。クローゼットの中には小さなセキュリティボックスがあり、下の窪み部分に中型以下のスーツケースが収まるスペースがあるが、2人で利用するなら機内持ち込みサイズがおすすめだ。(2024/8/3 筆者撮影)

ダーウィンからアリス・スプリングス間では、キャサリン駅で途中下車してエクスカーションに参加できるが、到着前にランチタイムとなるため、食堂車へと向かう。

食堂車の名は「クイーン・アデレード・レストラン」。高級感あふれるクラシックな雰囲気の中で食事を愉しめる。真っ白なテーブルクロスと銀のカトラリーが、これから始まる列車旅への期待をさらに膨らませてくれる。

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オリエント急行を彷彿とさせるクラシックなインテリアの食堂車「クイーン・アデレード・レストラン・カー」(2024/8/3 筆者撮影)

ランチを終えてキャビンに戻り、車窓に流れる風景を眺めているうちにキャサリン駅に到着。

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普段は貨物列車が利用する程度の小さなキャサリン駅。(2024/8/3 筆者撮影)

キャサリンでのエクスカーションの一番人気は、何といってもニトミルク渓谷クルーズだ。「ニトミルク・ロックアート・クルーズ」は、リバークルーズを楽しみながら、この地で暮らした先住民によって描かれた数千年前のロックアートを見ることができる。

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涼やかな川風が心地よいニトミルク渓谷クルーズ。河岸では淡水ワニ(ジョンストンワニ)が日向ぼっこしていることも。(2024/8/3 筆者撮影)

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この地の先住民たちが数千年前に描いたロックアート。上の岩壁に描かれているのは男とカンガルーなどの動物達。下は神話にも登場する虹蛇「レインボー・サーペント」。(2024/8/3 筆者撮影)

エクスカーションから列車に戻った乗客たちは、ラウンジで寛ぎながら思い思いに渓谷クルーズの印象を語り出し、今朝まで見知らぬ者同士であった人たちと長年の友のように会話が弾む。

ラウンジで一杯やりながら、束の間の旅仲間と会話を楽しんだり、または自分のキャビンでリラックスしながら、時間を気にせず心ゆくままに列車の旅を楽しめるのがザ・ガンの魅力でもある。

徐々に日が傾き、そろそろディナーの時間だ。乗客たちは順番に食堂車へと移動し始めた。

ディナーは、本格的な3コース。オーストラリアの食材をふんだんに使ったメニューのお供はもちろん、上質なオーストラリア産ワインだ。

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この日のディナーの前菜は「鴨肉のロースト、カカドゥプラムと生姜、パースニップピューレ添え」(2024/8/3 筆者撮影)

列車内で提供される料理とは思えないほど、満足度の高い食事を終え、キャビンに戻ると、横長のシートが心地良さそうなベッドへと作り変えられていた。

ベッドの高さは、窓の高さに合わせられているため、寝転びながら外の風景を眺められるのも良い。

newsweekjp_20240820023323.jpgディナーから戻ると横長のシートがベッドに作り替えられ、枕元にはチョコレートが添えられていた。(2024/8/3 筆者撮影)



ザ・ガンの旅 2日目:アリス・スプリングスへ

朝、目が覚めると、窓の外がうっすらと明るくなり始めていた。慌てて飛び起き、半分だけ下げてあったブラインドをあげる。もうすぐ日の出だ。アウトバックならではの鮮やかな色彩を帯びた空と赤土の大地が創り出す、幻想的な朝の風景が車窓いっぱいに広がる。

ラウンジ・カーへと移動すると、まだ誰もいない静かな空間に朝の柔らかな陽光が差し込み始めていた。

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まだ誰もいない静かな朝のラウンジカー。早起きをしてコーヒーを飲みながら、ここで日の出を見るのもおすすめ。(2024/8/4 筆者撮影)

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朝食は2コース。前菜の「マンゴーとクランブルのヨーグルト・パルフェ」。マンゴーはノーザンテリトリー北部トップエンドの名産品のひとつ。余談だけど、毎食のメニューがかわいい!(2024/8/4 筆者撮影)

朝食後、キャビンで寛いでいると、もうすぐアリス・スプリングスに到着するというアナウンスが流れ、それからほどなくして、ほぼ定刻通りにザ・ガン号はアリス・スプリングス駅に滑り込んだ。

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アリス・スプリングス駅では、ザ・ガンのシンボルマークにもなっているラクダとラクダ乗りの像がお出迎え。(2024/8/4 筆者撮影)

この駅で降車する乗客はもちろん、この先も旅を続ける乗客もここで一度列車を降り、2度目のエクスカーションへと出かける。

アリス・スプリングスでは、町の郊外に位置する雄大なTjoritja ジョリットジャ/ トジョリットジャ(旧名:ウェスト・マクドネル)国立公園へのエクカーションが最も人気だという。このエリアは、長い歳月をかけて地球が創り上げた太古の山脈と先住民文化が色濃く残る、魅力あふれる場所だ。

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Tjoritja(旧名:ウェスト・マクドネル)国立公園内の「シンプソンズ・ギャップ」は、赤い岩肌が泉に映り込み、神秘的な表情を見せる。ひょっこりと可愛いロックワラビーが顔を出した!(2024/8/4 筆者撮影)

シンプソンズ・ギャップをはじめとするこの国立公園は、私自身、何度か訪れたことのある場所ではあるが、いつ訪れても豊かな自然と素晴らしい景色に感動し、先住民の人々が受け継いできた知恵と文化に心を動かされる特別な場所となっている。

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トレイン・マネージャーであるトム・ボースウィック氏。ディナー会場のテレグラフ・ステーション歴史保護区でも出迎えてくれた。彼をはじめ、にこやかでフレンドリーなフタッフが思い出に残る列車旅を演出してくれる。(2024/8/4 筆者撮影)

レッド・センターの雄大な自然と文化を堪能して夕方には町に戻り、ザ・ガン95周年の祝賀ディナーへ。ザ・ガン、95歳のお誕生日、おめでとう!〈了〉

ザ・ガン The Ghan - Journey Beyond Rail

※ザ・ガンは、ここで紹介した1泊2日コースもあるが、最もポピュラーなのは、ダーウィンからアデレードまで2,979km全線を走破する2泊3日または3泊4日のコース。中でも3泊4日かけて走破する「ザ・ガン エクスペディション」が、最も泊数が長く、充実した列車旅を体験できておすすめだ。今回、私が体験したテレグラフ・ステーション歴史保護区でのアウトドア・ディナーも通常運行の「ザ・ガン エクスペディション」に含まれている。

<予約の裏技>
ザ・ガンは、1年以上前から予約している人が多く、なかなか予約が取れないと嘆く声も聞かれる。日本から予約するなら、ザ・ガンの旅に特化したパッケージツアーに申し込むのが最も手っ取り早い。個人で予約する場合は、かなり早い段階から動くのが一番だが、直近にキャンセルが出る場合もあるそうなので、こまめにチェックしているとポツッと空きを見つけることができるようだ。

【ザ・ガンでいくオーストラリア列車旅】
Part1:大陸縦断鉄道ザ・ガン 95周年!オーストラリアの荒野を駆ける豪華寝台列車

ご参考に!➡︎ ザ・ガン鉄道の旅 - ノーザンテリトリー政府観光局日本語サイト

Special thanks to:Tourism Northern Territory, Journey Beyond Rail

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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