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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

パリ・ノートルダム大聖堂のステンドグラスは本当に差し替えられてしまうのか?

改修工事終了まであと3ヶ月・・パリ・ノートルダム大聖堂は絶賛工事中  筆者撮影

マクロン大統領がパリ・ノートルダム大聖堂に現代的なステンドグラスの窓を設置するコンペの開催を発表したのは、2023年12月のことでした。現代的なステンドグラスを設置するということは、現在、そこにある19世紀に遡る既存のステンドグラスを撤去する必要があるということで、これに対する反発の抗議の声が大きく上がっているにもかかわらず、このプロジェクトは着々と進行しているようです。

前回の改修工事と今回の火災後の改修工事

ノートルダム大聖堂は、2013年に着工850周年を迎え、そのプロジェクトの一環として、北塔と南塔の鐘の鋳造や大聖堂前の広場の整備、屋内照明の改修が行われました。この際の改修工事の一部であった鐘の鋳造は、あくまで18世紀末から19世紀にかけての鐘をできるだけ忠実に再現するもので、これまでのものを変えるものではありませんでした。

しかし、その後、2019年4月19日の夕刻に起こった、恐らく世界中にそのニュースが轟き渡った悲劇的なノートルダム大聖堂の火災により、屋根の尖塔が崩落し、大聖堂は大変な大惨事に見舞われました。ノートルダム大聖堂に保存されていた多くの文化財・美術品などは、消防士により、運び出されるなどして、焼失を逃れ、巨大なパイプオルガン・ステンドグラスも無事であったと伝えられています。

あの日の映像は、今でも鮮明に覚えており、近隣の住民や信者たちがノートルダム大聖堂を仰ぎながら、ひざまずき、胸の前に両手を握り合わせて祈りながら、ノートルダム大聖堂の尖塔が炎につつまれながら焼け落ちていく様子に涙していた様子は今でも忘れることができません。

映像的にもかなり衝撃的であり、また、世界で最も有名な大聖堂のひとつであるノートルダム大聖堂の火災後の復興のためには、世界中から8億4,280万ユーロの寄付金が集まり、マクロン大統領は5年以内に再建するという大胆な目標を設定しました。途中、悪天候、新型コロナウィルス危機による中断などのハプニングが多々あったにもかかわらず、改修工事は着々と進行し、予定どおりに今年の12月には再開予定とされています。

大聖堂の内部では、床の工事と電気ネットワークの接続が完了。新たな防火システムも最終段階にあり、フレームには、フランスの大聖堂としては前例のないミストシステムが組み込まれ、火災後に清掃のために撤去されていた北塔の8つの鐘は9月中に設置される予定だと言われています。

再燃する現代的ステンドグラス設置に反対の大きな声

昨年、マクロン大統領がノートルダム大聖堂の現代的ステンドグラス設置プロジェクトを発表した後、歴史的文化遺産の専門家集団をはじめ、多くの人々からこのプロジェクトに反対する抗議の声が上がっていたにもかかわらず、その後に年金改革問題やそれに関わる暴動、パリオリンピックなどの他の事件やイベント事に紛れて、この話は、世間の話題からは一時、消え去っていました。

ところが、今月になって、文化大臣がプレスリリースというかたちで、「ノートルダム大聖堂の現代的ステンドグラスのために事前に選ばれた8人のガラス芸術家と工房のリスト」を発表したことで、「あのプロジェクトは多くの専門家の圧倒的な反対の声を無視して進められていたのか!」と驚愕と激怒の渦を巻き起こしています。

このプロジェクトが発表された直後、国家遺産建築委員会(CNPA)は、「大聖堂のステンドグラスは火災の影響を受けていないにもかかわらず、19世紀のウジェーヌ・ヴィオレ・ル・デュクの作品を撤去し、現代的なステンドグラスを設置することは、非常に理不尽であり、貴重なフランスの文化遺産に対する冒とくである!」と断固、抗議をしています。彼らはこのプロジェクトに関する会議を開催し、満場一致で反対の意見を表明。国家遺産建築委員会(CNPA)は、この抗議は1965年にフランスが署名したヴェネツィア憲章として知られる歴史的文化遺産・遺跡の保存と修復に関する国際憲章に基づいたもので、同憲章は、歴史的建造物の修復に関する規則を定めており、良い状態で保存されている古い要素のものを現代の作品に置き換えることを禁じていると説明しています。

マクロン大統領は、「大聖堂の現代的なステンドグラスの窓は「21世紀の象徴」となるように創られる」と説明しており、取り外されるステンドグラスは、将来建設される大聖堂の歴史を専門とする博物館に展示される予定になっていると言われています。

しかし、反対派は、「ノートルダム大聖堂はロマネスク様式のテイストを一部に残した初期のゴシック建築の傑作であり、基本的に左右対称形を軸にポルタイユ(大聖堂の正面玄関)やステンドグラスに何が描かれているのかという視点は重要なものであり、ゴシック建築は彫刻やステンドグラスを駆使して、聖書や聖人伝の様々なエピソードを表現しているものである。パリ・ノートルダム大聖堂では、とりわけ、3つのバラ窓のステンドグラスと正面ファサードの3つのポルタイユ上のレリーフが重要な価値を持つものであり、これが破損していないにもかかわらず、他のものに置き換えるなど言語道断。19世紀のステンドグラスが保存されたとしても、そこに(大聖堂内)あるからこその価値があるものである」と主張し、このプロジェクト反対の署名には、18万人を超える勢いになっています。

また、ノートルダム大聖堂は、「パリのセーヌ河岸」という名称で、周辺の文化遺産とともに、1991年にユネスコの世界遺産としても登録されています。

しかし、パリのノートルダム大聖堂は、カトリックの大聖堂でありながら、1789年以来、フランス国家の所有になっており、フランス政府の所有物でもあることから、この改修工事に関しては、大統領に大きな権限が委ねられていることも事実ではあります。

しかし、国家遺産建築委員会(CNPA)をはじめとした多数の人々の強固な抗議の声を受けながらも、なぜ?これほどにマクロン大統領がこの現代ステンドグラスにこだわり、このプロジェクトを強行しようとしているのかについては、理解に苦しむところです。ステンドグラスが火災により、破壊されてしまったのならばともかく、良好な状態のまま、残っているにもかかわらずです。

これには、一般の人々からも、「怪しげなシンボルだらけのオリンピック式典の後、同じ妄想で大聖堂を汚したいようだ!」とか、「ノートルダム大聖堂は、彼のおもちゃではない!それは歴史的モニュメントであり、フランスのキリスト教徒の魂の一部であり、目覚めた悪魔崇拝者の気まぐれのための絵画ではない!」、「現在のステンドグラスは完璧なので、触れる必要はない!フランスのキリスト教遺産に属するものを悪魔の手で汚す前にこの虐殺をとめよう!」などと、かなりもっともなものから、過激なものまで、マクロン大統領に対する怒号が飛んでいます。

にもかかわらず、これらの声を全く無視して、このプロジェクトを推し進めている政府に対して、国家遺産建築委員会(CNPA)は、「何も止めることができそうにないこの強行手段に直面して、私たちは、今、次のステップに進み、できるだけ早く、合法的な武器を使用しなければなりません!」とあくまでも、このプロジェクトに反対し続ける意見を表明しています。

それにしても、最近のマクロン大統領・・とにかく、かなり強引な気がします。

 

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著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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