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Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア

平野美紀|オーストラリア

世界最古の熱帯雨林に棲む『恐竜の生き残り』に会いに、密林の隠れ家へ

雲間からうっすらと太陽が覗き、太古の熱帯雨林を照らし出す朝焼けの瞬間。隠れ家のデッキからは、鬱蒼とした原始の森がどこまでも続き、まるでジュラシック・パークのようだ。(2021年5月 撮影 PHOTOGRAPH BY MASAHIRO HIRANO)

地球上、最古の熱帯雨林はどこにあるのか?

アマゾン? と思う人も多いかもしれない。世界最大の熱帯雨林といわれるアマゾンが形成されたのは、約5,500~5,600万年前と言われている。

それよりもさらに古く、近年の調査では、1億8,000万年前と推定される原始のままの熱帯雨林がある。

オーストラリア北東部、クイーンズランド州北部に広がる森林地区「デインツリー」だ。

鬱蒼とした熱帯の森が造る文明から隔絶された世界は、映画「アバター」にインスピレーションを与えたという。(参照

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いかにも屈強そうな爪を持つこの生き物は、体高最大2メートル。中国で発見された新種の恐竜コリソラプトルにそっくりな姿をしている...(2021年5月 撮影 PHOTOGRAPH BY MASAHIRO HIRANO)

文字通り、『世界最古の熱帯雨林』であるデインツリーの密林に、恐竜時代からその姿をほとんど変えず、今もひっそりと暮らす生き物がいる。

かれこれ25年程前、ロンドンでこの生き物の存在を知った私は、いてもたってもいられず、オーストラリア北部へ旅立った。残念ながらその時には会うことができなかったのだが、オーストラリアへ移住後、再び挑戦し、2度目に一瞬だけその姿を見ることに成功。しかし、すぐに密林へと姿を消してしまったのだった。

あれから、さらに10年近い月日が流れ、今度こそ、もっと近くで遇いたい!と、起点となる町ケアンズへ飛び、デインツリーへと向かった。

世界遺産の熱帯雨林

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1憶年以上前に遡る原始的な植物を含む、2,800種以上の植物で構成される世界最古の熱帯雨林は、約25%に当たる700種以上がこの地域のみに自生する固有種だ。(2021年5月 撮影 PHOTOGRAPH BY MASAHIRO HIRANO)

デインツリーは、1,200平方キロメートル以上に及ぶ広大な森だ。単体の熱帯雨林としてはオーストラリア最大であり、一帯は『デインツリー国立公園』として、世界自然遺産『クイーンズランドの湿潤熱帯地域』の一部をなしている。

このクイーンズランド北部の湿潤熱帯地域は、ガラパゴス島よりも生物多様性に富んでいる。現在確認されているだけで、650種以上の脊椎動物、230種の蝶類などなど・・・今でも新種が発見されるほどだ。

なかでも目を見張るのが、古代からほとんどのその姿を変えずに、命を繋いできた生き物たち。

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左/「小さなヴェロキラプトル」「ジュラ紀の遺物」とも呼ばれるこの森の固有種『ボイズフォレストドラゴン』。右上/熱帯雨林に棲む世界最大かつ最も原始的なゴキブリの一種『ヨロイモグラゴキブリ』。右下/水場には古代から姿がほとんど変わっていないワニも生息。(2021年5月 撮影 PHOTOGRAPH BY MASAHIRO HIRANO)

その昔、ゴンドワナ大陸の一部であったこの森に取り残されたものたちが、いまもなお、ひっそりと生き続けている。なんともワクワクするじゃないか。だからこそ、この地域は、地球上重要な『アルカディアの箱舟(古代にあった理想郷が閉じ込められたタイムカプセル...というような意味)』と呼ばれているのだ。(参照

こうした冒険心をくすぐる実在の世界に惹かれ、初めて降り立ったオーストラリアの地が、この熱帯雨林であり、私にとって忘れられないスタートラインでもある。

キャプテン・クックが『苦難の岬』と名付けたケープトリビュレーション

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上/デインツリー川には、橋をかけず、バージ船に車を乗せて、向こう岸に運ぶ。1度に運べるのは最大27台、約5分の船旅。下/対岸の北側で次の船を待つ車列。(2021年5月 撮影 PHOTOGRAPH BY MASAHIRO HIRANO)

世界最古の熱帯雨林「デインツリー国立公園」は、野生のワニが生息するデインツリー川で隔てられ、2つのパートに分かれている。南側は「モスマン・ゴージ」、北側は「ケープ・トリビュレーション」がメインとなるが、北側へ渡る橋はない。昔から使われているバージと呼ばれるはしけ船で車ごと乗りこむのだ。これは今も変わらない。

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野生のワニが生息しているデインツリー川では、川岸の野生生物と植生などの生態系を間近に見られるワイルドライフ・クルーズが人気だ。(2021年5月 撮影 PHOTOGRAPH BY MASAHIRO HIRANO)

私が初めて行った頃は、北側はまったく舗装されていないダートロードだったため、「北へ行くなら4WDじゃなきゃだめだ」と言われ、レンタカー屋にたった1台だけ残っていたキャンバストップのジムニーを借りて行ったものだ。軽のジムニーは少々非力ではあったが、用途的には十分だった。それよりも問題だったのは、キャンバストップだったことで、ダートロードが巻き上げる土埃がキャンバストップの隙間から入り込んでエライ目にあった...

キャプテン・クックじゃないが、本当に「苦難の岬」だと、涙がでそうになった。今はもうメインの道は舗装されているので、そんな心配はほとんどないが、今でも少し入ったところは未舗装路が多い。

そんなところに、目指す密林の『隠れ家』はある。

次のページ:恐竜時代の生き残り、「生きている恐竜」と言われる生き物たち、そして、いよいよ密林の隠れ家へ

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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