Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
クリスマスまでにウイルスを駆逐せよ!豪の新規感染0戦略
クリスマス。
それは、西洋諸国にとっては特別な日。
教会のミサに参加し、家族・親戚縁者が一堂に介してクリスマスツリーを囲み、定番のクリスマス料理を食べながらお祝いをする...そう、私たち日本人にとってはお正月の元日のようなものだ。
旧宗主国である英国の影響が色濃く残るオーストラリアにとっても、クリスマスは年中行事の中で重要な位置づけの日のひとつとなっている。州を越えてオーストラリア各地に散らばる家族が、クリスマスの日には実家に帰省するのが一般的だ。
しかし、今年は前半から世界的な新型コロナウイルス感染パンデミックに陥り、オーストラリアでは国境を閉鎖しただけでなく、ほとんどの州がそれぞれ独自の判断で州境を閉鎖。国内でありながらも、自由な行き来が遮断されてしまった...
クリスマスに家族に会えないなんて!・・・オーストラリア人にとって、これほど悲しく寂しいことはないだろう。
「国民にそんな悲しく寂しい思いをさせたくない!」
こうしてオーストラリアは、クリスマスまでに全土で新規市中感染ケースを0にしてコロナを制御、国内を正常化するミッションの下で動き出し、本日12月13日も全土で0を記録(隔離中の海外帰国者を除く)。いつもと変わらぬクリスマスを迎えようとしている。
感染拡大に歯止めがかからず、多くの国々がもがいているなか、感染が拡大して2度目のロックダウンをやっていたはずのオーストラリアは、一体どうやってウイルスを制御したのだろうか?
時系列でまとめながら、簡単に振り返ってみたいと思う。
NSW州とWA州での1件ずつは、海外帰国者隔離ホテル従業員など限定環境下での感染が確認されたため。
Data: Coronavirus (COVID-19) in Australia
パンデミック初期のロードマップ通りには行かなかった現実
オーストラリア政府は、5月、新型コロナウイルスを制御し、パンデミック後の正常化を想定したロードマップを発表した。(参照)
これは、国境を閉鎖し、一部の州境が閉鎖された中で、「ステイ・ホーム」が呼びかけられ、半ばロックダウンとなった規制状態から(規制の度合いは州によって異なる)、ウイルスを制御し、いかにして元通りの生活に戻していくか、という予定表のようなものだ。
オーストラリア政府はこれを発表した当初、規制を3段階に分けて緩和していき、最終段階では州間の移動を完全に戻して一部の国に対しては国境を再開し、ほぼ元の状態に戻すまでは「7月くらい」と想定していた。
これ、豪の国全体としての政府=連邦政府が公表したロックダウン後のロードマップだけど、最終判断はローカル(州政府や各自治体)に任せるという形になっていて具体的な期日を明確にしたわけではないのよ...
-- Miki Hirano (@mikihirano) May 9, 2020
豪、新型コロナ規制3段階で緩和 7月までに完全な経済再開目指すhttps://t.co/tlNAZwNNqm
6月には国内の新規感染ケースがほぼ抑えられ、このプラン通りに事が運んでいるように見えたが、世界の状況は悪化する一方...。また、国内でも先般のコラムで書いた通り、ほぼ感染を抑え込んでいたビクトリア州で急速に感染が拡大し始め、それどころではなくなってしまった。
ビクトリア州が感染を制御して、足並みを揃えるまで
オーストラリア国内で唯一、感染拡大に歯止めがかからず、2度目のロックダウンに踏み切ったビクトリア州は、まず、7月2日にメルボルンの一部のエリアのみを郵便番号で区切って感染流行地区としてロックダウンを開始。しかし、その後も新規感染ケースが増え続けたため、対象エリアをメルボルン都市圏全体、ビクトリア州全土と広げていった。そして、その他すべての州/準州は、ビクトリア州に対して州境を閉鎖。ビクトリア州民は州内から一歩も出られない形となった。
このビクトリア州2度目のロックダウンは、住民は近場であっても移動を大きく制限されるなど、 "世界で最も厳しいロックダウンのひとつ"と言われるほどの厳格なもので、メルボルン都市圏では10月28日に解除されるまで、111日間に及ぶ、"世界最長のロックダウン"となった。(参照)
この長く厳しいロックダウンによって、ビクトリア州は10月26日に念願の新規感染ケース0を達成。現在も若干の規制は残るものの、ほぼ緩和され、新規市中感染ケース「0」を更新し続けている。
一方、ビクトリア州以外の州/準州は、6月の段階で新規市中感染が0か数件、最も人口の多いニューサウスウェールズ州でも多くて十数件程度に抑えられていたため、各州内での規制は緩和されつつあり、ほぼ通常の生活が送れていたこともあって、一部の州では感染ケースが0となっている州を受け入れる形で、徐々に州境閉鎖措置の解除が始まっていた。(参照)
11月に入って、最後まで唯一除外されていたビクトリア州が新規感染ケース0を連日更新していることから、各州が行ってきたビクトリア州に対する州境閉鎖についても解除となる目途が立ち、ようやく足並みが揃った。
・・・と安心した矢先、南オーストラリア州で市中クラスターが発生し、一時はロックダウンに踏み切ったが、実際はそこまでの必要がなかったことが、数日後には判明。ピザ屋のバイトが嘘をついたことから、厳格なロックダウンするほどの大騒ぎとなってしまったが、その後、再び新規市中感染0となっており、ロックダウンも解除されている。(参照)
オーストラリアはなぜ、新規市中感染を0にできたのか
各州が早い段階で新規市中感染0にできたのは、いくつかの理由がある。
島国であるオーストラリアが国境を閉鎖し、さらにニューサウスウェールズ州とビクトリア州以外の州/準州が独断で州境を閉鎖したことにより、国内でも州境をまたぐ人の移動はほぼ無くなった。そのため、各州がそれぞれ自分の州内だけを監視すればいいことになり、州毎に感染症対策を進める上でかなりやりやすくなったはずだ。
そして、この初期に連邦政府と歩調を合わせる形で、すべての州/準州が半ばロックダウン状態にして州内の人の動きをも止めることは、感染拡大を抑制する意味で非常に効果があった。この措置を行うに当たっては、連邦政府と各州政府がビジネス(個人と企業)に対して補助金等による支援策を打ち出し、最低限の生活と事業の維持はほぼ確保される形となった。これについては、世界で活躍する豪経済学者たちが、こうした政府の方針を支持する声明を出したほどだ。
オーストラリア人経済学者122人が"経済"のために健康を犠牲にしないよう、豪内閣に求める公開書簡。この(COVID-19による)公衆衛生危機に対処しなければ経済を機能させることはできない。国境や各州で実施された措置により新規感染が減少...その成功を無駄にしてはならない...https://t.co/pO2ieA9uxQ
-- Miki Hirano (@mikihirano) June 25, 2020
とはいえ、ただロックダウンするだけでは、ほとんど意味がない。
パンデミック初期の短期間に、少しでも何らかの症状(喉の痛み、鼻水、咳など)がある人は、誰でも無料で検査を受けられる体制を整え、感染確定者は軽症であっても自宅で14日間の自己隔離(自宅療養)してもらった上で、感染経路追跡を徹底的に行った。※ちなみに、オーストラリア全体の検査件数は、12月10日時点で10,301,064。(参照)
この、まず人の動きを止め、そして、『徹底的な検査→感染者の隔離→感染経路追跡』という一連の対策は、非常に重要。感染拡大する他国では、ロックダウンや大量検査をしても、ほとんどの国が感染経路追跡で失敗しているため、ロックダウンの効果を得られないまま、感染拡大に歯止めがかからない状態が続いている。(参照1, 参照2)
クリスマスを見据えたロードマップ
ビクトリア州での感染制御成功を受けて、11月13日、オーストラリア政府は、「クリスマスの日」をゴールと定めた「Framework for National Reopening by Christmas クリスマスまでに全国再開するまでの枠組み」を発表。(参照)
5月に発表したロードマップを少し更新する形で、12月25日のクリスマスをターゲット・デーとし、オーストラリアでは『COVID NORMAL』と呼ぶコロナ後の国内正常化を目指すこととなった。
ビクトリア州の厳しい2度目のロックダウンのスケジュールもまた、ここへ皆で共に向かうためにクリスマスをゴールと定め、逆算したロードマップだったのである。(参照)
現在も全土で新規市中感染ケース0となっているオーストラリアでは、国内においてはほぼ自由な行き来が戻り、国内のビジネスもクリスマス商戦に向けてさらに活発化。ソーシャルディスタンスや一部施設での人数制限など、まだ若干の規制は残っているとはいえ、ほとんどが緩和され、ほぼ通常通りのクリスマスが送れそうな気配だ。
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/
メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/