NYで生きる!ワーキングマザーの視点
パワハラに対しアメリカのHRはどう動いてくれるの?
ビジネスにおいてパワハラ(パワー・ハラスメント)という単語は日本でよく知られている。権力や地位を利用して、嫌がらせを行うという意味である。ただしこの言葉は、英語ではなく日本でつくられた造語だということを知らない人が多い。パワハラの防止を企業に義務づけ、日本の法律となったのは2020年の6月。まさしくこのコロナ禍のまっただ中。
【参考】ジャパンタイムズの記事
今回、このパワハラも含め、セクハラ(セクシャル・ハラスメントの略語であり性差別の意味)、レーシャル・ディスクリミネーション(人種差別)、エージ・ディスクリミネーション(年齢差別)など、アメリカでこうしたハラスメントへの取り組みがどのように行われているのかをニューヨーク大手企業のHR(ヒューマン・リソース、人事部)で働く女性にうかがった。
「労務的な面では、ペイロール(給与)、評価、報酬、ベネフィット、コンプライアンス。ソフトな面では、今後重要性が高まる役割では、トレーニング&デベロップメント(人事戦略にもとづく計画的・持続的な人材の育成をするため、階層ごとに多種多様なプログラム)、従業員のエンゲージメント(会社に貢献したいという気持ち)の向上、HRテクノロジー(最先端のテクノロジーを使って、採用・育成・評価・配置などの人事関連業務を行う手法)などがあります。
特にアメリカでは、ダイバーシティー& インクルージョンといって、国籍や性別などの違いを問わず、多様な人材を受け入れる企業の体制や取り組み&個々の考え方や能力をいかに活用していくかに焦点を当てたもので、人材登用後の制度や風土づくりに重きをおく考え方について多くの企業がHRに専任者を置いています。
従業員のエンゲージメント向上は、HRだけではなくマネジメントと共同作業となる高度な分野です。社員が、チーム意識を持ちながらも、仕事を通して自己の成長を感じることができる環境づくりが科学的に研究されてきています。部下と上司との関係についても、初めて部下を持つ人にはマネージャートレーニングを受けてもらい、コミュニケーションの仕方を学んでもらうようになっています」
──早速、今回の核心であるパワハラについてなのですが、アメリカの企業ではどうやってパワハラを受けている人をHRが守ってくれるのでしょうか?
「日本ではパワハラ法ができてからというもの、パワハラを受けた本人からの苦情があれば、相談に応じ適切な対処を行うことが企業に義務付けられました。ところがまだアメリカでは、パワハラというくくりは、ありません。エンプローイー・リレーションといって、職場の組織的問題としてあつかわれます。
上司が権力を振りかざし、傷ついてる社員がいる場合は、その傷ついている本人からの申告があった場合に、まずは職場内で解決できなければHRが介入し、両者から話を聞くということから始まります。
上司には、部下への対応をこうしたほうがいいってアドバイスをし、部下には、上司がこういう風にみているから、こういう風に関係を改善していくべきだということを知らせます」
──つまりそれは、カウンセリングやコーチングってことですか?
「そうですね。まだアメリカではパワハラに対し、処罰ということにはならないので。HRがその上司と部下の両者へむけて、カウンセリングやコーチングを行うことで対応し関係性の改善を目指します」
──パワハラ以外のセクハラといった問題はどうHRが対処してくれるのでしょう?
「パワハラの処罰は難しいのですが、セクハラとレーシャル・ディスクリミネーションに関しては、日本よりも処罰が厳しいです。実際にボディータッチや性差別的な発言があり、セクハラを受けたと苦情があった場合、すぐに会社は適切な対応を取らなければなりません。ニューヨークでは特にゼロトレランス=絶対に許さない、という強い指針を設けています。セクハラを行った社員が解雇されるケースもあります」
──前に派遣社員の男性から、女性の社員がセクハラを受けたとHRに申告したことで、突然に契約を切られ解雇されるというケースがあったのですが、その場合に派遣先のHRは、どう対応するのでしょうか?
「そうした場合、派遣先のHRは、派遣元の会社に直ちに連絡をします。送り込み元の会社が、その人材にセクハラの教育してなかったということで、処罰の対象になります。解雇というのもやむを得ない状況です。
セクハラの規定はアメリカではとても厳しいです。最近は特に気をつけないといけないトピックとしてジェンダー(性別)の問題などもあって。書類にジェンダーを書く欄がある場合、たとえば書類などには、Non-binaryという新しい項目をつくってあるんです。性別を表明しませんという選択肢です。アメリカでは同性婚も増えているので、配偶者に関しての記載も慎重に行われます」
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──レーシャル・ディスクリミネーションやエージ・ディスクリミネーションというのは、日本ではそういったケースが少ないと思うのですが。
「レーシャル・ディスクリミネーションは、人種に関して差別的な発言があった場合、すぐにペナルティーの対象になります」
日本人はたまに軽い気持ちで、『NYの地下鉄で、アッパーイーストを過ぎたあたりから、黒人ばかりになって怖かったよ』などという発言をする人がいるけど、そういうのはレーシャル・ディスクリミネーションなので禁句なのだ。
──エージ・ディスクリミネーションに関して、そもそも日本では40代を超えると、女性は正社員として働く場所を確保することさえ厳しいわけですが。アメリカでは面接で年齢を聞くことや、書類への年齢記載さえも注意が必要ですよね?
「アメリカにはエージ・ディスクリミネーションの法律があり、40歳以上の従業員はこの法律で保護されています。そのため解雇される側が、40歳以上で、マイノリティーで女性という場合、プロテクテッド・カテゴリーに入るので、会社は特に気をつけないと、訴訟を受ける可能性もあります」
アメリカでは、こうしたディスクリミネーションによって解雇された側から訴訟受けた場合、企業側が多額の損害賠償を支払うというケースは多い。その額もハンパなく、コカ・コーラ社が2000年の11月に黒人従業員2千人からの人種差別による損害賠償請求訴訟の和解金で、総額1億9250万ドル(約210億円 当時の換算)を支払った事実に驚愕だ。
【参考】労働政策研究・研修機構の記事
〜コカ・コーラ社は、2000年11月16日、雇用における人種差別をめぐって黒人従業員が集団で起こした損害賠償請求訴訟の和解金として総額1億9250万ドル(約210億円)を支払うことで合意した。米企業の人種差別訴訟和解金としては、1996年に石油大手テキサコ社が合意した1億7610万ドルを抜き、最高額となる〜
著者プロフィール
- ベイリー弘恵
NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。
NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com