コラム

美容整形大国の韓国を舞台に描く、「外見の美しさ」にとらわれる女性たちが抱く羨望と絶望感

2020年07月07日(火)14時40分

韓国の女性たちは幸せを手にするために美容整形への誘惑に駆られる JadeThaiCatwalk/iStock.

<登場人物の財閥御曹司やK-POPスターなどのリッチな男性の言動を通して、女性を同等の人間とはみなさない男性社会を辛辣に描いている>

今年4月に発刊された小説『If I Had Your Face』の作者フランセス・チャは、韓国系アメリカ人。若い女性の3人に1人が美容整形の手術を受けると言われる韓国を舞台に、同じアパートメントに住む4人の若い女性たちの苦悩を描く。

美容整形で美しくなったKyuriは、「トップ10%の最も美しい女性」だけを採用するという(日本の高級クラブに相当すると思われる)Room Salonでホステスをしている。ルームメイトのMihoは孤児院で育ったが、現在は新進のアーティストとして注目されかけている。貧乏だが、アートの才能を認められて奨学金でニューヨークに留学し、韓国に帰国後も奨学金でアートを続けている。

2人の部屋の向かいに住むAraは有名人にも指名されるほどの腕利きの美容師だが、子供時代の怪我で発話ができない。Araのルームメイトで幼馴染のSujinは、美容整形をして美しくなり、Kyuriと同じサロンで働くことを夢見ている。この4人の下の階に住むWonnaは、気が優しい夫と結婚しているものの、満たされない思いを抱えている。

彼女たちに共通するのは、生まれたときに与えられた不運な環境と、有名人や裕福な者への羨望、そして「どうあがいても良い暮らしはできっこない」という絶望感だ。

もし私があなたの顔を持っていたら......

Kyuriは美しさとチャーミングなやりとりでサロンで一番人気のホステスになり、超リッチな客に気に入られて高級バッグなどのプレゼントを受け取っている。サロンのマダムは客とのセックスを強要しないものの奨励はし、「借金」などの多様な方法でホステスが逃げないよう縛り付けている。

ゴシップ雑誌によく登場するK-POPの女性スターをみかけたKyuriは「あなたは、ものすごく多くのものを持っているし、やりたいことはなんでもやれる」「もし私があなたの顔を持っていたら、もっと上手にあなたの人生を生きてやるのに」と思う。友人の間では、冷静で辛辣だと見なされているKyuriだが、肉体関係を持ち、恋心も抱いていた裕福な客から酷い扱いを受けたときには深く傷つく。

ニューヨーク留学中に知り合った財閥の御曹司とつきあっているMihoは、Kyuriからハッピーエンドを信じているナイーブな女だとみなされている。恋人と対等であるために高価な贈り物をいっさい受け取らなかったMihoだが、彼が自分に隠れて浮気をし、同時に良家の娘との結婚を計画していたことを知ってからはKyuriより冷静に自分の将来に役立つ復讐を計画する。

有名なK-POPの男性スターに病みつきになっているAraは、ついにそのスターと会う機会を得るが、夢と現実との違いを見せつけられることになる。

両親から見捨てられ、預けられた先の祖母から虐待やネグレクトを受けて育ったWonnaには心優しい夫がいるのだが、かえって煩わしいと感じている。唯一の夢は自分が心から愛せる子供を持つことなのだが、これまで何度も流産を繰り返している。今回の妊娠だけは最後まで守りたいと思っているのに、職場では出産休暇を取れない状況になり、夫が失業していたことを隠していたことを知る。

<関連記事:美容大国の韓国でミスコン大炎上 審査廃止でも水着映像上映、伝統衣装をミニスカに

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IMF、日本の成長率見通し引き下げ トランプ関税の

ビジネス

IMF、新興国の成長率見通し引き下げ 資金調達問題

ビジネス

英成長率、今年1.1%に下方修正 インフレは上振れ

ビジネス

IMF、中南米・カリブ海諸国の2025年成長率見通
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 6
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 10
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story