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強烈な「毒親」の呪縛から、大学教育で抜け出した少女
タラの人生が変わったきっかけは、この難関のブリガムヤング大学に入学したことだった。だが、17歳にして初めて体験する「学校」に慣れるのは難しかった。小学校で教わるような常識も知らないのだから。ナチスドイツによるユダヤ人大虐殺の「ホロコースト」を聞いたこともなかったタラは同級生から奇異の目で見られ、誤解されたりする。
親から教え込まれた厳格な宗教観とサバイバリストの思想から抜け出すのも容易なことではなかった。自宅に戻るたびに学校での教育と親の思想の間で葛藤したタラだが、大学を卒業後に、ビルとミランダ・ゲイツ財団が創始した「ゲイツ・ケンブリッジ奨学金制度」でイギリスのケンブリッジ大学の大学院に進学した。そして、ハーバード大学でも学ぶ機会を得て、ついに思想史と政治思想で博士号を取得する。
学校に通うこともできなかった少女がここまでの教育を得たことには驚愕するが、タラと家族との関係は彼女が教育を得るにつれ困難になっていった。兄のショーン(仮名)の暴力がエスカレートしたのにもかかわらず、両親は彼をかばい、暴力を訴えるタラのほうを糾弾して精神的に追い詰めた。そして、ついにタラは親や兄弟の一部と縁を切ることになる。
この回想録が出版された後、タラの両親は弁護士を雇って「事実無根だ」と主張している。また、事故や大怪我がたえない家族と、それを母のアロマテラピーで治す部分に「この回想録は信用できない」と感じる読者がいるようだ。しかし、タラの昔のボーイフレンドは「この本に出てくる Drew は私だ。タラと僕は現在では付き合っていないが」と前置きしたうえでアマゾンのレビューでこの本の信憑性を裏付けしている。彼はこの本に登場する主要人物全員に何度か会っているし、ここに書かれていることはタラだけでなく他の人物の言動で目撃したと語っている。
タイトルから想像できるように、この本は偏った信念や宗教によるマインドコントロールから抜け出して、自分自身を信じるための教育の重要性を語っている。教育を否定された子供が閉ざされた環境で育つ恐ろしさも。だが、アメリカの多くの読者は「家族」の葛藤の部分にも共感したのではないだろうか。
この部分では、同じく今年刊行されたスティーブ・ジョブズの娘の回想録『Small Fry』を連想する。どちらも、いわゆる「毒親」に翻弄されながらも、愛される努力をし続けた娘の心理が描かれている。私も父との関係で共通する体験をしているので、二人の葛藤が実に切なかった。
タラもジョブズの娘のリサも、結果的には親に心理的に別れを告げることで人生に折り合いをつけるのだが、日本でもそこに励まされる読者がいるだろう。
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