コラム

精神医学の専門家が危惧する、トランプの「病的自己愛」と「ソシオパス」

2017年10月27日(金)15時00分

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ホワイトハウスを訪問した筆者

招待してくれたのは、これまで4回の大統領選挙を経験している共和党のベテラン戦略家である。彼自身は「社会的にはリベラル、経済的には保守」という立場であり、筆者がヒラリー・クリントン支持だったことも承知している。

雑談のときに率直な意見を求めたところ、彼は言いにくそうにこう語った。

「(共和党の議員たちは)みな、トランプはクレイジーだと知っている。トランプに票を投じた者の多くもそう思っている。だが、有権者は自分たちの生活を良くするために何もしてくれない議会にうんざりして、ぜんぶ捨ててしまいたいと願った。彼らは、すべてをぶち壊して、新しく何かを始めてくれる者としてトランプを選んだのだ」

最近になってようやくジョン・マケインなど何人かの共和党議員がトランプ批判に乗り出したが、いずれも再選を狙わない者だけだ。そのほかの共和党議員らが後に続かないのは、次の選挙で有権者から見捨てられるのがトランプではなく自分だと分かっているからなのだろう。

翌日のパーティでも、集まったのは共和党の人たちばかりなのだが、みな税金を湯水のように使うトランプ政権の閣僚たちに呆れ果てていた。だが、それを公に追及するのは「大人げない」という雰囲気があるのも事実だ。民主党の議員やヒラリーの支持者がトランプを糾弾するのもそうだ。「選挙に負けたのだから、潔く沈黙せよ」と批判されてしまう。

先の共和党の知人も「メディアはトランプの言動にいちいち振り回されてはならない。自分に都合が悪いことから目をそらすための目くらましなのだから」と言う。

しかし、こういう態度こそが、先に出てきた「悪性の正常化」の一種ではないかと感じた。

トランプ大統領の精神状態について最も重要な点を指摘しているのは、二部の「トランプ・ジレンマ」に寄稿したニューヨーク大学教授の精神科医ジェームズ・ギリガンかもしれない。

『男が暴力をふるうのはなぜか そのメカニズムと予防』の著者であるジェームズ・ギリガンは、エッセイの中で「われわれが論点として挙げているのは、トランプに精神疾患があるかどうかではない。彼が危険かどうかだ。危険性は、精神科の診断ではない」と主張する。

トランプの危険性を証明する言動は多く記録に残っているが、ギリガンが例として挙げているのは、「使わない核兵器を持っていることに何の意味があるのかという発言」、「戦争の捕虜に対して拷問を使うことを奨励」、「すでに無罪であることが証明している黒人の少年5人に対して死刑を要請」、「『スターならなんでもやらせてくれる』と女性に対する性暴力を自慢」、「政治集会で、自分の支持者に抗議者への暴力を促す」、「(大統領選のライバルである)ヒラリー・クリントン暗殺をフォロワーに暗に呼びかける」、「5番街の真ん中に立って誰かを拳銃で撃っても支持者は失わないと公言」といった多くのアメリカ国民が熟知しているトランプ発言だ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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