コラム

ソーシャルメディアはアメリカの少女たちから何を奪ったか

2016年04月19日(火)16時15分

ソーシャルメディアで過激な性情報に晒されることでアメリカの10代の性行動は大きな影響を受けている Martin Dimitrov-iStock.

 どの時代のどの国にも、子ども同士の「いじめ」はある。

 筆者は、テレビがまだ一般家庭に普及していなかった時代に日本の学校で執拗ないじめを経験したし、インターネットの利用がまだ一般的ではなかった2001年から数年間、アメリカの公立小学校で教師や親と一緒にいじめ対策に関わった。どの国のどの時代でも、教師や親がどんなに努力しても子どもたちのいじめを察知するのは難しい。加害者はもちろん、被害者も報復や孤立を恐れて大人には打ち明けない。だから、被害者は精神的に追いつめられ、自殺という悲劇に発展することもある。

 ソーシャルメディアの普及により、いじめの場はネットに移行し、ますます状況は悪化した。「Cyberbullying」と呼ばれるネットを利用したいじめは、インターネットがなかった時代と本質的には変わらない。ある人物をターゲットにし、悪い噂や陰口を流し、孤立させる、というパターンだ。しかし、ネットいじめでは、写真やビデオというビジュアルな情報がまたたく間に学校中、町中、国中に広がるところが以前とはまったく違う。また、噂を無視するためにネットから離れても、教室に自分が足を踏み入れたとたん、同級生たちが背後でスマートフォンを使って噂をやり取りするのを感じる。思春期で身体が毎日のように変わり、ホルモンバランスが崩れ、精神的に不安定になっている子どもたちに、それを無視できるほどの強い精神力は期待できない。

 そのうえ、ネットでの子どもたちの「たまり場」は、ますます大人からは見えにくくなっている。

 著者は2009年1月にツイッターを始め、2010年に『ゆるく、自由に、そして有意義に』というツイッターでの付き合い方に関する本を執筆したが、当時と比べると、ソーシャルメディアの雰囲気はずいぶん攻撃的になったと感じている。

 また、若者を中心とした「群れ(herd)」を作るアンダーグラウンド的なソーシャルメディアがどんどん生まれ、中高年齢層はもう情報について行けなくなっている。

 ツイッターやフェイスブックなら、ある程度ネットの知識を持つ親であれば、子どもの言動や交友関係を察知ことができる。だが、40歳以上でInstagram 、Vine、Tumblrまで使いこなしている人はあまりいないだろうし、SnapchatやYik Yakにいたっては、存在を知る人のほうが少ないだろう。

【参考記事】あのモニカ・ルインスキーがネットいじめ防止を訴える/Abate(~を弱める)

 2011年にスタンフォード大学に在学中の3人の男子学生が開発したSnapchatは、(多くの人が見られる設定もあるが)特定個人に向けたビデオ、写真、メッセージが閲覧して数秒で消えるところが最大の魅力だ。ツイッターや普通のチャットだと、いったんアップロードしたものを消すのは困難だが、Snapchatなら「ここだけの話」もしやすくなる。

 Yik Yakは、サウスカロライナ州フルマン大学の男子学生2人が在学中に考えついたもので、ユーザーが近くにいるユーザーと繋がって「群れ」を作り、写真、ビデオ、メッセージをシェアする。現実に顔見知りの高校生、大学生が「群れ」を作る傾向があり、互いのエントリをup(良い)、down(悪い)で評価する。そこがユーザー同士の競争心を煽り、依存度も高める。

 親たちが知らないこうしたソーシャルメディアの場では、何が起こっているのか?

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story