コラム

平成の終わりに、東京から新潟まで歩くことにした

2019年03月05日(火)18時30分

◆五輪選手村建設地と栄枯盛衰の市場

01002.jpgスタート地点の晴海客船ターミナルで東京湾をバックに(中央筆者)

7R306560.jpg東京五輪選手村建設地

01004.jpg

10年前の五輪選手村建設地=2008年7月撮影

さて、そんなわけで、晴海客船ターミナルで同行の高校の同級生(元山岳部で歩きには慣れている)2人と合流し、東京湾の太平洋を見てからスタート。ターミナルを出ると、目の前に東京五輪の選手村の建設現場がドーンと現れた。オリンピック誘致活動が始まる少し前に、まだ空き地だったここで犬のグラビアのロケをしたことがある。その時は都会のエアポケットとも言うべき、一種のサンクチュアリ的な土地だった。しかし、人口減の時代とはいえ、過密な日本の都会はいつまでも空白な土地を許さない。

この旅を終えた時には、五輪は終わっているかもしれない。晴海からスタートしたのは、期せずして「2020年を挟んだ新旧の日本を見る」という旅の趣旨にピッタリであった。選手村の高層マンション群は、五輪後に一般に分譲されるというから、ポスト2020の晴海は第二の豊洲、いや、それ以上のコンドミニアム地帯になるであろう。

01005.jpg築地大橋

工事現場を過ぎ、運河と隅田川を渡って勝どきから旧築地市場へ。そう、今や築地市場に「旧」がつく時代である。スタート地点の晴海客船ターミナルの対面に新しい豊洲市場が見えていたのも、何か象徴的だ。浜離宮側の裏手からは、取り壊し途中の築地市場の建物が見えた。時代の移り変わりを感じながら、汐留から銀座へ向かった。

01006.jpg取り壊し中の築地市場

◆「日本一の繁華街」

01007.jpg銀座

僕が追い続けている撮影・取材のテーマに「アイメイト」(公益財団法人「アイメイト協会」が育成する盲導犬)があるが、戦後間もなく日本で最初に盲導犬育成を始めた同協会では、アイメイト使用希望者の歩行指導(訓練)の卒業試験を、1950年代末から変わらず銀座で続けている。「日本一の繁華街である銀座を安全に歩ければ、世界のどこでも歩ける」という思いを込めてのことだ。ちなみに、この銀座での卒業試験を経て社会に出たアイメイト使用者とアイメイトのペアは、今この記事を書いている2019年2月27日時点で1,362組にのぼる。銀座の知られざる昭和と平成の歴史だ。

01008.jpgアイメイトの銀座卒業試験の様子=2017年7月撮影

その「日本一の繁華街」を抜け、皇居を横目に国会議事堂前に至る。議事堂前庭の公園で小休止。そこに、「日本水準原点」というものがあった。山がちで起伏の激しい日本の標高の基準点となる水晶板の目盛りが、石造りの重厚な建物(標庫)の中に収められている。ここに立ち寄ったのは、せっかく近くを通るのなら、これから嫌というほど味わうことになる日本の標高差の基準点を体感しておきたかったからだ。

01009.jpg日本水準原点標庫にて(中央筆者)

麹町あたりから、いよいよ国道20号・甲州街道に出る。糸魚川へ行くには、長野県塩尻市の終点まではひたすら20号を進めばいいわけだが、ずっと国道沿いを歩くのはいかにも味気ない。20号はルートの目安としつつ、適宜面白そうな裏道を歩いたり、旧道に外れながら進むつもりだ。東京の西端の大垂水峠や山梨県の笹子峠など、道路を通らずに登山道で山越えをしようと思っているルートもある。

01010.jpg

国道20号交差点=千代田区麹町

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story